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自由が丘でのnetfilmsのレビュー・感想・評価

自由が丘で(2014年製作の映画)
4.0
 分厚い封筒に入った数枚の手紙、クォン(ソ・ヨンファ)は以前勤めていた語学学校で、モリ(加瀬亮)からの情熱的な郵便物を受け取る。2年前、語学学校の同僚だったかつての恋人からの突然の手紙に女は戸惑う。モリはすぐに日本へと帰国し、彼女に会いにまた韓国にやって来ていた。クォンが住んでいた当時の家から歩いて5分のゲストハウスに泊まり、モリは彼女を必死に探していた。クォンは手紙の1ページ目を読んで語学学校を出るが、階段で立ちくらみを起こし落としてしまう。拾った手紙は順番がバラバラになり、1枚は拾い忘れてしまう。クォンは日本名の呼び名のカフェ「自由が丘5丁目」に寄り、バラバラの順番のまま、手紙の続きを読み始める。彼女を探して、ソウルの街を彷徨い続けるモリは、同じゲストハウスに泊まっているアメリカ帰りの男サンウォン(キム・ウィソン)と仲良くなり、毎晩のように飲み語らっていた。モリは迷子になった犬クミを見つけたことで、カフェ「自由が丘5丁目」の女性オーナー・ヨンソン(ムン・ソリ)と親しくなる。

 日本人のモリは2年前の意中の相手が忘れられず、衝動的にソウルに舞い戻る。手紙に書く2週間の経過とそれを読むヒロインの数時間の時間の対比。文章は良い部分だけを抜粋しているので一瞬だが、その手紙がバラバラになったことで、事態は更にややこしくなる。現在と過去が継ぎ接ぎのように時系列バラバラになった物語は、モリの溜めた思いを受け止めるヨンソンの登場で混沌を極める。引用された「映画に実体はない」という言葉は、まるで今作を体現するかのごとく登場し、おまけにヨンソンの飼っている犬の名前は、クミ=夢という。クォンに書いた分厚い手紙と吉田健一の『時間』のフレーズ、サービスで出て来たアキケーキと鼻持ちならない演出家、一度眠りに着くと、朝食サービスの朝10時までになかなか起きられないモリの様子は、『へウォンの恋愛日記』のへウォンのように別世界でまどろむ。自由が丘で男は、時間の森(モリ)に迷い込み、夢を見つけ出し日本へ戻る。たったこれだけのことが、便箋がバラバラになったことで実験的な時間の経過を持つ。クライマックスもそこが来るかという不思議な余韻に包まれる。加瀬亮の飄々とした佇まいも素晴らしい。
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