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野火のdeenityのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
3.0
原作『野火』は大岡昇平が完成させた名作。戦争をテーマとする作品は今でもいくつも作られているが、戦争の悲惨さという点で言えば本作の右に出るものはないんじゃないかと思うくらい壮絶な映画だった。

監督は主演も務めた塚本晋也。自分はこの監督に関しては『鉄男』のイメージが強く、ストーリー性こそ掴めなかったものの、やたらと印象的な表現が多かったのを覚えていて、本作も塚本晋也節が満載だった。
所々に印象的なシーンが多く、特に色が出ていたのは逃げ惑う日本兵を一斉掃射で蜂の巣にしていくシーンだろう。鮮血が吹き出し、腕が捥げ、腹わたが飛び出し、次々に撃ち殺されていく様。まさに地獄と表現するのに相応しいと感じた。
個人的には上空からの掃射シーンはかなり印象的で、気づくと狙撃音がし、逃げる間もなく銃撃が迫ってきて、あっけなく通過していく。一瞬にして死んでいく恐怖。あれを撃ち込んだ操縦士にはたぶんわからない。あれはあの場にいて、常に狙われることを気にしながら逃げる兵員にしかわからない。

それに対してレイテ島の自然の美しいこと。戦争映画に青空とか美とかははっきり言って不調和だと思っていたが、かえってこの対比が見事に効いていて、「春望」とかでも対比されていたのを思い出した。人間と自然。有限と無限の対比。見事だと思う。

この映画の無慈悲な点はやはり救いのないところであって、それは表現だけに限ったことではない。
主人公の塚本晋也は自分の意志もなくただ彷徨うばかり。とは言え根底にある「生」への執着心こそがこの作品の根本的なテーマであって、あの極限状態に置かれた人間がどのようにして生き延びるかという問題と向き合った時、やはり食という問題を避けては通れない。
しかし、その一線こそが人非ざるかどうかのボーダーであり、「猿狩り」と称してそれを狩るほどの非道徳的な行為を受け入れるのか、それでも尚「生」にしがみつくのか。

ラストまで見てもやはり救いはない。しかしそれこそが戦争であるということをまざまざと突きつけられた気分だった。
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