いしはらしんすけ

野火のいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
3.8
塚本晋也監督が構想20年の末、完全自主製作した、意義だらけのトラウマ映画。

言うまでもなく大岡昇平による戦記文学の代表作が原作で、大昔に読んだ気がするもののぼんやりした記憶しかなく、公開時に改めて読んだ...にも関わらず、劇場では見逃したっていう。

資金調達に苦心したというだけあって、序盤を中心にローバジェット感は映像に反映されてはいる。しかしながら中盤の虐殺シーンやフィリピンロケの遠景など、要所でビシッとスケールの大きな画をはめ込んでくるので、全体の印象はまったくしょぼくない。

むしろそのミニマルさを活かしたドキュメント感が戦場のリアルをダイレクトに伝え、主観共有効果を存分に発揮。

そこに原作由来の凄惨極まりないシーンが、塚本監督お得意のゴア/スプラッター描写が仮借ないエクストリームレベルで具象化されている。この必然、この説得力に圧倒されない観客はまずいないでしょう。

お話的には短編である原作を比較的忠実にトレースしつつ、いくつかのシークエンスでは細かいチューニングでより印象度をアップ。ラストの改変というか解釈も得心100%の締め方になっていると思います。

リリー・フランキー、中村達也、森勇作、中村優子と演者の素晴らしさも、登場人物少ないだけにより自明。

そして主役を張る塚本監督自身の熱演がさらに作品のリアリティ&クオリティを底上げしているってのが、作品完成までの経緯を思うとつくづく染みるじゃあないですか。

この企画にスポンサードが付きにくい邦画を取り巻く状況はホント情けないけど、その代わり一切の妥協なしにこの域にいけたと考えればある種の結果オーライではある、硬骨の一撃作です。