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雨の日は会えない、晴れた日は君を想うのkouのレビュー・感想・評価

4.5
《分解し続けた果て》
まずダラス・バイヤーズクラブが素晴らしくて、この監督の作品なら絶対に面白いだろうと思って見に行った。しかも主演がジェイク・ギレンホール。ナオミ・ワッツも出てるとなれば見に行かない訳にはいかない。一切予告編を見ず、情報を入れずに見に行ったのがまた良かったのかもしれないが、ストーリーに常に惹きつけられて、主人公をずっと見つめてしまう感じ。彼の危うげな破壊から、その先に何があるのかわからないスリリングな内容でもあると思う。

銀行員のディヴィスは妻を交通事故でなくすが、彼女の死を悲しむことが出来ない。彼は義父の「心の修理も車の修理と同じで、まずは解体すること」という助言から、周りのものを壊し始める。トイレやパソコンに始まり、最終的に家までも。それは観ていて爽快感すらある。時にハンマーで、物を投げたり、ガラスを割ったり、ブルドーザーまでも使い家を壊していくさまは圧巻だ。

そんな、どこか自暴自棄、狂気すらあるようなディヴィスの姿は観ていてどこに向かうのかわからない。ジェイク・ギレンホールの「ナイトクローラー」でも見せた狂気というのは今作でも健在だ。本当に素晴らしかった。そんなディヴィスが「再生」への道を歩むきっかけになるのが、自動販売機のカスタマーサービスの女性カレン(ナオミ・ワッツ)とその息子クリスだ。家族も妻も関係のない、全く新しい関係は彼の行きつく場所になる。

そんなとても不思議な物語なのだが、ラストには大きな感動が待っている。そのラストの解釈は人それぞれだと思うが、僕はディヴィスが自分の感情、妻の愛おしい部分を思い出した瞬間なのではないかと思っている。

一つ一つの何気ない事、日常と年月によって忘れ去られてしまう事がある。「なんとなく、そのほうが楽だったから結婚した」と言ってしまうほど、妻に対して何も感じていなかったディヴィスがその忘れていたことを思い出すのだ。それはなんてこと無い「物」、なのだが、そのなんてこと無い「物」が愛おしく、いなくなった人を思い出すきっかけにもなる。とても共感させられるのは、そんな些細な事が人間の余白でありつつ、人柄を表したりもするという事。彼が分解をし続けて、なんだかわけがわからなくなった先、ふと転がり落ちた小さな部品に希望を見出すように、彼はその小さなものを見つける。感動的だ。

飽きさせない、考えさせられるストーリー。スマートで音楽と合わせてとても素晴らしかった。見る人によって感想も大分違うだろう。いろいろな感想を聞いてみたくなる作品だった。
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