めばち子

雨の日は会えない、晴れた日は君を想うのめばち子のレビュー・感想・評価

5.0
壊れてからでないとその存在を確かめることのできないものがある。原題の意味する『破壊』を経て主人公がたどり着く、かつて確かに存在した愛の在り処の象徴としてのメリーゴーランドを目にした時、どうしようもないほど涙が出て、図らずも嗚咽を漏らしてしまった。
『ダラス・バイヤーズクラブ』でもそうだったが、失って初めて気づく大切なもの、尊厳や自由、自身に正直に生きることを奇をてらわずに、しかし誰もの胸にしかと届くように描きながら、一人の男の魂の再生へと至る物語は、日々の生活の中で何かしら大切なものを失いながら、それとは気づかずに(若しくは気づかない振りをして)やり過ごす現代の我々の物語として共振し、共鳴しながら、主人公たちのその強さで胸を打つ。
ラストで遠くから主人公を望遠鏡で見つめる少年。中盤にも同じシーンがあったが、その時とは別人の、これから先の人生を確かな自身のものとして生きて行く二人がそこにはいる。
そう。ここでの少年とは本作を観た我々一人一人のことなのである。
めばち子

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