Adele

雨の日は会えない、晴れた日は君を想うのAdeleのレビュー・感想・評価

4.1
ぶっとんでるんだけどリアルな質感をもった映画でした。

映画における「死んだ嫁」って、たいてい記号的な存在であることが多い。
思い出されるのはいつもキラキラした優しい笑顔で(もちろん嫁はすっげー美人で、たいてい砂浜で戯れてたりする)。

でも現実ってそうじゃないんだと思って。
覚えているのはきれいな思い出ばかりじゃなくて。
そもそも胸を張って「愛してた」って言えなかったり。
でもそこにはふたりの生活があって、片方が居なくなっても生活だけは地続きで。
そんな気持ち、簡単に処理できないんだろうなぁ。

途中の「大人がやっちゃいけないことシリーズ」のオンパレードは声出して笑っちゃいました。常識とっぱらって、感覚の赴くままやりたいこと全部やる。(主人公の場合は壊して壊して壊し尽くすこと。)それってなんだかすごく羨ましい。
社会ルールからの逸脱を許されず、常に建前にまみれて生きている大人の立場からすると、あのイっちゃってる数々の破壊行為はカタルシスすら感じます。
そして気付かされるのは正直であることは自分を解放することであり、一方で防御を捨てるから自分を傷つけることでもあるのだなぁ、と。(文字通りケガするシーンと、最後にとある人の身に起こることからそう思わされます。)

終盤はいろんなことが急に起こりすぎてびっくりした(一瞬誰がどうなってるのか分からなくなった)けども、最終的には切なくもあたたかな気持ちに。

ジェイク・ギレンホールは間違いなく魅力的。表情もルックスも。
あと息子(クリス)役の子、タバコ似合いすぎでしょ!(ターミネーター2のエドワード・ファーロングを思い出した。)
この2人の奇妙だけど密な関係性がすてきだった。




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(以下、邦題に関しての追記)

はじめ気付かなかったんですが、原題は”Demolition”(破壊)。
各コラムやレビューブログでも取り上げられていましたが、原題と邦題ではかなり物語への考察が変わってきそう。

なおかつ邦題の「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」もかなりの意訳で、作中の元の文章は”If it's rainy, You won't see me, If it's sunny, You'll Think of me.”だそう。
車のサンバイザーに挟まっていた付箋なので、単純に捉えればなぞなぞのように擬人化した文章を妻が戯れに残しただけのように見えます。
「雨の日は見ないけど晴れた日は思い出すものなーんだ?」みたいな。
(回想シーンで奥さんがお菓子に”Eat me”って付箋を貼ってたことからも、こうした行動が彼女らしい遊び心の現れだと見て取れます。)

原題のDemolitionであれば、このシーンは純粋に妻の「彼女らしさ」に想いを馳せるシーンになります。一方、邦題ありきだとそこからさらに深読みして、その文章は彼女が自分と主人公の関係性を隠喩したように思えてきます。
実際どうなんでしょう…。個人的には、本作を観る限り主人公と妻の間に天気にまつわるエピソードは無いように見えるので、前者の方が自然な捉え方に感じます。

ただ邦題により、観る側が主人公と妻の関係性にフォーカスさせられるので、これはこれでいいかもとも感じます。意図的に深読みされられるのは少し癪ですが。
日本人って結構こういうの好きなんじゃないかな。村上春樹の小説とか読むと考察サイト見たくなっちゃうし。
「なるほど、これはこういうメタファーだったのか!」っていうやつ。

どう捉えるにせよ、面白くてじわる映画には変わりないと思います。
Adele

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