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世界一キライなあなたに(2015年製作の映画)
3.5
 キングサイズのベッドの上で微睡む幸せそうなカップルの姿。ウィル・トレイナー(サム・クラフリン)は彼女アリシア(ヴァネッサ・カービー)との別れを惜しむように優しく抱擁する。シャワーを浴び、スーツ姿に着替えたウィルはアリシアを残し、雨の中を出勤する。雨で視界の悪い中、スマフォで会社と連絡を取りながらタクシーを呼んだウィルはやって来たオートバイに撥ねられる。一方その頃、6年勤めたカフェの倒産により職を失ったルイーザ(ルー)・クラーク(エミリア・クラーク)は絶望の淵に追いやられる。両親の失職もあり、すぐに仕事を探さなければならないルイーザは、お城での介護の面接に見事合格する。彼女が介護するのは、運動神経抜群でエリート社員だったが、今はお城に篭るウィル・トレイナーに他ならない。ウィルは2年前にオートバイにはねられる大事故で、車椅子生活を余儀なくされる。診断の結果、重度の脊髄損傷を負って四肢麻痺になっていた。自暴自棄になったウィルはネイサン(スティーブン・ピーコック)に付き添われながら、新たな介護士であるアリシアの登場を冷淡に見つめている。野暮ったいカラー・タイツに着丈の合わない上着を羽織る女の姿に、事故の前まではモテ男だったウィルは軽蔑を隠そうとしない。頸髄損傷で体が不自由な富豪と、その介護人となった貧困層の移民の若者との交流は、フランス映画で歴代3位の大ヒットを記録した『最強のふたり』と同工異曲の様相を呈する。

 『世界一キライなあなたに』というタイトルの割には、随分あっさりとヒロインと心を通わせるウィルの葛藤の薄さが心底心許ないのだが 笑、ウィルはルイーザの心の内を見つめている。別れた最愛の彼女アリシアを親友に奪われ、失意のどん底にあるウィルはただじっと窓の外を見つめる無為な日々を浪費するのだが、ルイーザは彼に生き甲斐を見出してもらおうと献身的に振る舞う。何があっても、心底ポジティブで根アカなルイーザの笑顔にウィルは癒され、次第に失っていた笑顔を取り戻す。ようやく登場した「ポスト・ヒュー・グラント」の最右翼であるサム・クラフリンの大らかなイケメンぶりが素晴らしい。彼の優しい眼差しに励まされ、最初は野暮ったくて、いかにも田舎の貧乏娘風だった26歳のヒロインのファションは徐々に洗練され、女性らしく生き生きと変化して行く。それと同時にウィルの心の有り様を表現したかのような天候の移り変わりが印象深い。事故にあった時は大粒の雨が降り、生命の危機に際しては、しんしんと雪が降り積もる。フランスとスペインの国境になっているピレネー山脈のふもとにあるルルドでは、大嵐に見舞われるが、ウィルがある大きな決断を果たした時、空は真っ青に晴れている(ここは1ショットでも空の色を入れるべきだった)。何も一番幸せな瞬間に懺悔しなくても良いと思うし 笑、賛否両論分かれるクライマックスの場面の倫理観には違和感もあるが、DVDのパッケージにもあった車椅子のダンス・シーンに思わず涙腺が緩む。
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