よしまる

ゴンドラのよしまるのレビュー・感想・評価

ゴンドラ(1987年製作の映画)
4.2
 インディーズ映画の傑作、という触れ込みでCSで録り溜めていて、友人とのオンライン上映会のお題に上がったので満を持して鑑賞。いやぁ、素晴らしかった!

 カルトムービー、って言われると身構えてしまったり、わかったフリして面白がったりしがち。けれどもそんな必要の全くない、作り手の思いがまっすぐに届く作品だった。

 都会で出会う若者と少女。男はおそらく20歳そこそこ、少女は小学5年生。この大海原のような東京の街で、お互いがそれぞれの孤独と戦いながら暮らしている。
 出会うはずのない2人がふとしたことで邂逅し、不思議な感覚で惹かれ合う。

 あからさまなエロティシズムは押さえられている。ボクにはこの青年は明らかに少女に恋しているように見えた。おそらくは監督の目線が透けて見えるからだろう。
 とは言っても、ロリコンということではなく、お互いに少し欠けたところがありながら、1人の人間同士として向き合っている。好き、とか、好意、というとすぐに性的なものに直結しがちな世の中で、ましてや年端も行かない少女が対象だからと言って、何でもかんでもエロいケシカランと非難するのもおかしいし、そういう感情があっても悪いこととは思えない。そういうギリギリな線を巧みに突いているのがすごく良かった。

 ゴンドラからの空撮、夕陽に煌めく水面を捉えたタイトルバックから、プールでの初潮の始まり。長谷川初範ウルトラマン先生の場違い感。そこから水を意識させる揺らいだ画面が随所に挿入され、少女はずっと水の底から浮かび上がることができない。道路に描かれた白線や線路を長回しでひたすら歩む、ゴールもなければ光も見えない、そんな閉塞感が続き、舞台は夏の東北へ。

 青森の北の果てと聞くと厳しい冬の寒さや狂ったような荒波を勝手に想像してしまうのだけれど、こののどかで暖かな景色はどうだろう。人も村も海も、驚くほど穏やかで温かい。そんな気候や環境が、都会で煤けた心をほぐしていく。ここでもまた同じように延々と海岸線を歩くのだけれど、それは1人ではなく2人であり、都会の寒々としたモノクロームな風景とはまったく違う、光の降り注ぐ世界。

 まだインターネットも無かった80年代から、デジタルに進化した今に至るまで人々の孤独や哀しみは少しも減ってはいない。
 それでも人と人との出逢いが、世界をこんなにも美しく変えてくれるということを教えてくれるこんな映画を、嫌いになれるはずがない。