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ロスト・エモーションのmorimotoseiichiのレビュー・感想・評価

ロスト・エモーション(2015年製作の映画)
2.4
 予告編やYouTubeなどで見かけるタイトル表記のないファスト映画なんかではおもしろそうなんだけど、本編を観るとまったくイメージと違うというタイプの映画で、観ていて作品の世界に引き込まれるとか、おもしろいと思えるようなものではなかった。「情動(emotion)」というなかなかおもしろいテーマを扱っていると思うのだけど、十分にそれを作品の中で生かしきれていないという感じ、と思いきや、『ロスト・エモーション』という邦題は原題とまったく違っていて、原題は"Equals"(平等)だった。

 ところで、この映画の中では何が「平等」と考えられているのだろう。感情や情動が平等をかき乱す原因やきっかけになるという消極的な理解によるものなのだろうか。没個性的であることが必ずしも平等とイコールにはならないはずだけど、平等の否定につながるものは排すると。

 教育や薬によって私たちの情動を完全に抑えることができないというのが考えさせられるところで、それを無理やり抑えるには自ら命を絶つか〈安楽死〉という名のもとに共同体(イコールズ)から命を奪われるか2つに1つしかない。情動はそれほどまでに私たち人間にとって根源的なものであり、否定しようとしても否定しきれないということ。私たちにとって根源的なもの、それは情動だけでなく、尊厳であるとか生存権であるとか基本的人権に含まれるさまざまなものを社会が抑えつけたり奪ったりしようとしても決してうまくいくことはない。これは人類の歴史がこれまで幾度となくその実例を示してきたことであり、たとえ本作であれ同じ日に観た『ドント・ウォーリー・ダーリン』であれジョージ・オーウェルの『1984年』であれマーガレット・アトウッドの『侍女の物語』であれ、その作品の結末においてもしかすると抵抗や脱出・脱走に成功しなかったとしても、同じようなことは繰り返されいつかは成功するだろうという希望が、世界の秩序を大きく変え人類は進歩してきたたわけよね。まさにこの〈希望〉も私たち人間にとって根源的なものであり、この作品の世界で否定されていたもの。

 2025年5月5日(月・祝)にAmazon Prime Videoで鑑賞。