むらむら

さよなら、人類のむらむらのレビュー・感想・評価

さよなら、人類(2014年製作の映画)
5.0
スウェーデンの映画監督ロイ・アンダーソンの作品。

前作が「愛おしき隣人」、今作が「さよなら、人類」、そして2020年11月に公開される新作が「ホモサピエンスの涙」。

隣人→人類→ホモサピエンスと、タイトルのスケールが大きくなっていくって面白いな、と思っていたら、原題は全く邦題と違ってた。

「愛おしき隣人」←「あなたは生きている」
「さよなら、人類」←「鳩が枝の上で考えた」
「ホモサピエンスの涙」←「無限とは」

おいおい、日本の配給担当、勝手に大風呂敷広げてんじゃねーよっ! 「さよなら、人類」と「鳩が枝の上で考えた」一文字も韻を踏んでないじゃねーか。鳩と枝野って民主党かっつーの。

しかも「さよなら、人類(原題:鳩が枝の上で考えた)」の公式サイトでは、元「たま」の柳原陽一郎が、

「自分の作った作品と同じタイトルなので、やや観てて緊張した」

ってコメントしてくれてる。

いやいや、これ、監督とか作品は関係なくて、単なる配給会社の自己満足じゃん。つーか、こんなオファーに真面目に付き合ってくれる柳原さん、いい人すぎっ!

と、一通り、邦題に文句をつけたところで、作品の感想に移る。

「ドラキュラの歯」「笑い袋」「歯抜け爺のマスク」という、がらくた市でも売れないような玩具を売ってあるく二人組の哀愁漂うオッサンが主人公。

ぶっちゃけ、話はあってないようなもんで、戦争や生と死なんかをモチーフにしたスケッチが延々と続く。どのシーンも固定のワンショット。ワンシーン、ワンカット。意外に、これ、撮るの大変だと思うんだけど、これで一貫してるところに、監督の強い拘りが伺える。

だけど、それが映画として面白いかというと……微妙。

モンティ・パイソンっぽい不条理ギャグだと捉えれば、納得できるシーンも多い。例えば「『ごんべさんのあかちゃん」を大合唱するカフェとか、居酒屋に迷い込む騎馬隊とか。それでも、一つ一つのシーンが長いんだよね。ショートコントくらいの長さでも良かったのでは?

ちょっとネタバレになるけど、後半で残酷なシーンが2つほど出てくる。これも、抑揚があるわけでなく、淡々と残酷な描写が続くので、めっちゃ不気味。

一応コメディに分類されてるけど、観終わった人は、絶対、この残虐なシーンが頭にこびりつくと思う。

(以下、ちょっと残虐シーンのネタバレ)

特に、2番めの、巨大な銅円筒に奴隷が詰め込まれて、兵隊から火をつけられるシーン。円筒がクルクル回って、円筒につけられたラッパが鳴り出す……って、こんな夢に出てきそうな設定、どう逆立ちしたら発想できるのだ。俺らだけじゃなくて、二人組のセールスマンのうち一人まで「いやー、酷い悪夢を観た」つってるし。悪趣味にも限度があるだろ、っていう。「インモータルズ -神々の戦い-」観終わったら、牛に人を詰めて燻す「ファラリスの雄牛」のシーンしか覚えてないのと一緒。

この銅円筒に書かれてる「Boliden」ってのはスウェーデンの鉱山会社。先進国に搾取される途上国を象徴しているらしい。

日本の熱湯コマーシャルみたいに、火をつけたら奴隷たちが「アツゥイ!」つって飛び出してきて、兵隊たちをぶん殴る、みたいなオチにしてほしかったです。

この「ワンシーン・ワンカット」は、監督の作風らしく、前作「愛おしき隣人」も、新作「ホモサピエンスの涙」も。全く同じ「ワンシーン・ワンカット」の手法で撮られているとのこと。WIKIPEDIAによると、「興行的に失敗したことで、25年間、映画を撮らなかった」らしいんだけど、そりゃそうでしょ……。

観ててかったるいし、正直、観てる途中、何度も意識を失いかけた。そんで「ハッ!」と思って起きても、まだ同じシーンが映ってる。「あれ? 停止ボタン押してたかな?」と思ったら、ゴニョゴニョ会話してるという。「まだ続いてたんかい!」みたいなことを幾度となく思った。

ただ、それでつまんなかったか、というと、そういうわけでもなく。

うーん、例えて言うなら、青汁みたいな作品なのかな。

「まずい! ……でも、もう一杯!」

こんな感じの作品。

そんな、好きになれないけど気になる、って作品を探している人にはオススメです。ただし、睡魔との戦いになるので、寝ると脳に電気ショックを与えられる(←もう一方の残虐シーン)、くらいの覚悟で観てください!
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