継

あやつり糸の世界の継のレビュー・感想・評価

あやつり糸の世界(1973年製作の映画)
4.0
コンピューターによって電子空間に構築された仮想現実の世界。
ある日, 未来社会をシュミレートする「シミュラクロン1」を開発した研究主任·フォルマーが謎の死を遂げる。
後任となった主人公·シュティラーだが, 彼の周辺でも奇妙な出来事が相次ぐ。
やがて自身がヴァーチャルな存在なのでは?と恐れを抱いたシュティラーは, フォルマーの死因とシミュラクロン1について調査を始める。。。

原題や英題『World On A Wire』はシュッとしててSFっぽいけど, 邦題『あやつり糸ー』だと映画のイメージと少し距離が空いてしまう。
最初知らなかった頃は, 旧版パケ↑のビスクドールみたいなヒロインの肌感から, あやつり人形のお話かとww.
知った上でパッケージ↑を見ると, 操る糸を表す縦線の羅列がバーコードにも見えて “嘘だと言ってくれ” はそれをリーダーで読み取った管理される者の心の声のようでもある。そもそもバーコードがこの頃あったのか?って事も踏まえて, 今見ると先進的な良く考えられたデザインだなと思う。


’73年, 元々TV用に撮られた西ドイツ製.
SFの設定を借りて, 管理社会や人間心理, 人として存在する意味みたいな普遍的なテーマを描いていく。

それを意識させるガジェットが「鏡」。
鏡に映る自分は, 自分のように見えて実際はそうではなく自身の投影に過ぎないけれど, 人間を模して電子データの集積としてプログラムされた9000もの個体が形成するコミュニティも, 鏡の中の世界に似て現実に見えても実際はそうではない。
架空な存在である事に絶望する男 “ノーバディ” と,
それを知りながら人間にならんと上層界へ侵入する “アインシュタイン” という, 個体名からして象徴的な2人は『ブレードランナー』のレブリカント達の原型を見るようだった。

同時に, ドイツ製という意味ではヒトラーに操られた頃のドイツ(とユダヤ人)を否が応でも思わせる所も。操る側と操られる側, ワンクリックで消される存在…
上述のパケ写のヒロインが, ヒトラーの妻と同じエヴァという名なのが余計にそう思わせる。

操られ, 生かされ, 勝手に動けば糸をぷつりと切られる人形のような人生。
マトリックスよりは『アルファヴィル』を, 或いは『トゥルーマン・ショー』を思わす映画。
ファスビンダーがこれを撮ったのは20代なかば。ワンクリックされたのかは知らないけれど自身が急死したその後の現代に “責任を負わない・操られて生きる方がラク” みたいな風潮が生まれる事は予見してただろうか。。

二部構成で各々が100分ちょっと。2010年版ニューマスターは旧版の損傷や汚れを除去するのが主眼だったようで, 格段に色味が良くなったとか鮮明になったとかはなし。元々そんな悪くも(良くも(^o^;)なかった印象だけど, そう言われれば “ギラリ” と光る鏡の反射光なんかはシャープになってたような気がしないでもない。
フリードウッドマック「アルバトロス」が流れる♬エンドロールで第一部が終わるとメニュー画面へ立ち返る仕組みで, 続けて観るかor止めるかを選択出来るのは親切な設計でした。
継