masayaan

わたしに会うまでの1600キロのmasayaanのレビュー・感想・評価

3.5
音楽のセンスが20年以上も前の、自分の青春時代で止まったままのダサい母。大学教育を受けておらず、飲んだくれのダサい夫と結婚した無教養な母。それでも自分たち子供を愛し、自分なりの哲学で幸せに生きようとしていた母。

その母の死を精神的な合理化に利用して、セックスとドラッグを両手に抱えて落ちるところまで落ちた娘が、どん詰まりの中で決意した無謀な旅。教養としてでしか自分の中に存在してなかった文学の言葉を身体に染み込ませながら、女はどんどんと歩いて行く。あるいは母の愛した時代遅れのポップ・ソングを反芻しながら。

ふんわりとした自分探しではなく、かと言ってしかめ面の修行というでもなく、何となくのフィーリングで自分に課すことにした儀式としての旅。誰しもが『イントゥ・ザ・ワイルド』を連想するだろうけど、変に禁欲的過ぎないのが良かった。旅それ自体もフィーリングで「これ!」と決めたものだし、ピンチになればどんどん助けを求めるし、いい感じの男がいれば一晩くらい寝てもいいかな、みたいな。

時系列が曖昧にされたフラッシュバックは、旅の最中の出来事と微妙にリンクしながら、自然なモンタージュで断片的に挿入される。そして最低限のモノローグ。その映画的な語り口はとてもスムースで上品だ。気持ち的には4点だが、全体を綺麗にまとめてしまう説明的なエンディングが惜しかった。でもとてもいい作品です。
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