終始抑制したトーンで純度の高い恋愛を繊細に描いている。
決壊し溢れ出る感情のダイナミズム。
原作小説は1952年の刊行とのことで、かなり先鋭的だったのでは。
よく映画で見る1970年代のマンハッタンには猥雑なエネルギーを感じるが、
本作で描かれる50年代のニューヨークは静謐でモノトーンな印象。
二人の出会ったデパートの売り場がノスタルジックで印象深い。
モノトーンの街並みでキャロルの纏う鮮やかなファッションの美しいこと。
建造物や自動車などの美術も楽しい。
冒頭のカフェのシーンの時制が劇中で不明だったのが、終盤にわかるのも効いている。
一人娘の親権をめぐるキャロルの身を切るような判断が痛ましい。
恋が育っていく過程でずっと悲しい予感がついて回っていたから、
ラストシーンの、二人の微細な表情の変化、それが幸せなサプライズだった。
あとタイトルバックとエンドロールが史上稀に見る地味さ(好き)。