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キャロルのtjZeroのレビュー・感想・評価

キャロル(2015年製作の映画)
4.0
1950年代のN.Y.。
デパートに勤めるテレーズ(ルーニー・マーラ)は、🎄プレゼントを買いに来たキャロル(ケイト・ブランシェット)と知り合い、深い仲になっていく…。

原作小説を書いたのは、『見知らぬ乗客』や『太陽がいっぱい』の映画化でも知られる、ミステリ作家パトリシア・ハイスミス。

本作は自伝的小説。つまり、彼女自身もレズビアンでした。

LGBTへの理解が進みつつある現代ならともかく、’50年代は口に出すこともはばかられるようなタブー扱いだったことでしょう(本作も別名義で出版されました)。
本当の自分、を偽らざるを得ない苦悩があったはず。

ハイスミスは、そうした懊悩をミステリというフィクションによって昇華させます。
たとえば、『見知らぬ乗客』は、他人同士のふたりの男が交換殺人の秘密を共有する物語。
『太陽がいっぱい』は、富豪の友人を殺害した青年が、その友人に成りすまして犯罪を隠し通そうとする物語。
どちらも、公に出来ない秘密を抱えた主人公が、心の闇の解放を求めるストーリーです。
自身の性癖を偽らざるを得なかった、ハイスミスの心情が反映されているのは間違いありません。

本作でキャロルが発する、印象的なセリフがあります。
「自分を偽る生き方では、存在意義が無い」。
”作家”という職業や、”母”や”娘”という家庭における役割は、社会から要求される記号というか、本当の自分が身にまとう”衣装”のようなものでしょう。

そういう意味で、テレーズがキャロルを追い求めていくきっかけが、キャロルが忘れていった”手袋”というのが象徴的です。
残していった抜け殻のような手袋をたどって、本当の(生身の)キャロルを求め、その出逢いによってテレーズもいろんな鎧を脱ぎ捨てて真の己を見つけ出していく…。

そんなふたりの女性のふれ合いを、真摯に、ミステリアスに描いた、上質の恋愛映画であります。
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