にいにい

ヘイトフル・エイトのにいにいのネタバレレビュー・内容・結末

ヘイトフル・エイト(2015年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

クエンティン・タランティーノが描く9本目の雪原の服飾店が舞台の密室惨殺劇。いつものタランティーノ節が炸裂し、面白いことは間違いないんだけど、手放しに賞賛は出来ない。そんな1本。

まず良かったところから。フィルム撮影に拘るタランティーノが本作で選んだ手法は70mmフィルム。自分は映像に詳しくないため、70mmフィルムが何を齎すのか分からない。ただ、本作での表情をすぐ変える雪原の見せ方の上手さを感じた。冒頭のまだ静かながら何かが起こることを予感させる表情や、惨劇の最中の猛吹雪、ギャング団の希望を抜き取ったような朝日が射し込む美しい雪山。コロリと表情を変える物語にリンクしたような雪山のカットが密室劇中心の本作に広がりを与えた。

タランティーノ作品お馴染みのキャストによる演技合戦も見事。とにかく実力派で渋いおっさん&おばさん達の老獪で芯の通った演技こそ、この映画を支える屋台骨である。山小屋に閉じ籠った後の所謂、ワンシチュエーンな会話劇は脚本のセンスと役者の演技力にかかっている。中盤から後半部分の加速度的な面白さはここにあるだろう(ティム・ロスが出てきたのが嬉しかったのと、9人目の男であるチャニング・テイタムの活かし方が上手い)

バイオレンスなシーンも最高だ。観る前から誰も生き残らないだろうなと思っていたが皆が皆、憎悪とともに息果てる。あれだけ血飛沫がたつと不思議とグロくないし、笑えるのよ。登場人物に感情移入しにくい構成であり、『イングロリアス・バスターズ』や『ジャンゴ』のような歴史的な因縁に殴りかかる爽快感は無かったが、タランティーノが描くバイオレンスなシーンはやはり好物だ。

そして忘れてはならないのが先日オスカーを獲得したシーンが記憶に新しいエンニオ・モリコーネの楽曲達である。冒頭から鳴り響くテーマ曲もそうだが、山小屋で演奏されるピアノやギターが惨殺劇に彩りを与えた。

ここまで良かった面を書き連ねたが、ここからは引っかかる点。まずこれは大概の人が思ったことだろうが、とにかく長い。物理的に3時間ある映画でもその面白さから体感時間的にはもっと短いということもあるだろう。自分は本作を観ていて山小屋到達までのチャプターで2時間超、山小屋到達後は1時間ほどの体感時間だった(実際は山小屋到達までで1時間弱、山小屋到達後で2時間ほどだと思うが)

そう、とにかく山小屋到達までのチャプターが長いのだ。

その主たる原因は冗長な会話、これに尽きると思う。『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』等、タランティーノ作品の代名詞の1つである物語に何も関係のない無駄な会話。自分も大好きである。ただ、本作での会話のシーンのほとんどは無駄話じゃない。特に山小屋到達までに繰り広げられる話は登場人物の紹介だ。しかも、珍しいことに全く可笑しくないときた。こうなるとただただ冗長で苦痛でしかなかった。

(後は密室ミステリーなんて広告をうった日本の配給会社に騙されてそれを期待してしまうと肩透かしを喰らう。時系列を入れ替えたチャプター制もタランティーノの十八番だが、本作では切れ味が鈍っている)

白人嫌いの黒人、黒人嫌いの白人、メキシコ人嫌いのアメリカ人等、人種・民族・宗教間で憎悪溢れるこの世界を切り取ったような山小屋での8人。この世界の行き末を皮肉るような最期だったんかなとも思った。

面白かったのは間違いないけど引っかかる。手放しは賞賛出来ない理由が整理してみると何となく見えてきた。自身が宣言している引退まで残り2作、もっと楽しませてほしい。
にいにい

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