エソラゴト

ヘイトフル・エイトのエソラゴトのレビュー・感想・評価

ヘイトフル・エイト(2015年製作の映画)
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男女8人冬物語 〜残酷編〜


アメリカ南北戦争終戦直後、猛吹雪に見舞われたワイオミング州のあるロッジ室内で繰り広げられる密室劇ー。クエンティン・タランティーノ監督、自身8作目の監督作品。

鑑賞直後に思い浮かんだのは日本人某有名監督の某ヤクザ映画のキャッチコピー。悪人どころか別の要素まで加味されていて最後まで一筋縄でいかない綿密に練られた脚本とキャラ設定、そして近作で特に見受けられる「差別」への言及も為されれておりこれぞタランティーノ印とも云える痛快エンターテインメント作品。

前作『ジャンゴ』と同じ時代設定の所為か実は同時進行で撮影された作品?と思いたくなるも、内容はやはり全く別物。デビュー作『レザボア・ドッグス』や『イングロリアス・バスターズ』第1、第4章を連想させる会話劇と密室劇というタランティーノ監督の真骨頂とも集大成とも云える作品。ただ残念だったのは上記作品を超えるまでの緊迫感・緊張感が少々希薄だった件。

タランティーノ監督作品というと様々なB級作品のオマージュ(今回は『遊星からの物体X』!)や癖のある役者陣が織り成す軽妙でコンパクトに纏められた作品というイメージが個人的にはあるのだが、デビュー作と『デス・プルーフ』を除くと実際はどれも意外や意外2時間半越えの長編作品が殆ど。今作もご多分に洩れず6つの章に別れた3時間弱の濃密な群像劇なのだが、不思議とそこまで長いとは感じさせないのも彼の手腕ならでは。

役者陣もタランティーノ組とも云える面々が総出演。個人的には初参加で紅一点デイジー役のジェニファー・ジェイソン・リーに注目。D.クローネンバーグ監督の『イグジステンズ』での天才ゲームデザイナー役でセクシー美女を演じその魅力にやられた一人だが、今作での見事な文字通りの汚れっぷりやギターの弾き語り等アカデミー助演女優賞ノミネートも納得の熱演。

そしてタランティーノ作品鑑賞の醍醐味は、張り巡らされた伏線や細かい演出を見逃すまいと上映開始の瞬間から注がれる集中力で鑑賞後に訪れる心地よい疲労感ー。とはいえ、今作冒頭からのチャプター跨ぎの馬車内シーンは思いのほか余りにも長尺で今回ばかりはあのお二人様同様落馬寸前(笑)。しかし中盤以降の「ミニーの紳士服飾店」からの曲者演者8人での攻防戦は流石の怒涛の展開で前のめりで観入ってしまった。