社会のダストダス

ゴジラ キング・オブ・モンスターズの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

4.5

ゴジラオタクの監督の手に2億ドルを握らせて出来上がったのは怪獣のヤク漬けだった。

「世界を怪獣で覆いつくせ!放射線よ降り注げ!ガハハ!」という危険な思想が垣間見えるモンスターバース3作目。
ゴジラがハリウッドに上陸してから20年にして、遂に脳筋怪獣プロレス・エンタメムービーが誕生、やったぜ!

「ゴジラ(2014)」→「シン・ゴジラ」→アニメ3部作の流れからして、変にお堅い作風になるんじゃないかと危惧したが、しっかりとアホな映画に仕上げてくれたので安心した。
人間ドラマは中々にアレだけど、ゴジラ映画全般の中でいえば脚本賞レベルのマシなストーリー、何よりキャストが豪華。
前作から続投のキャストは渡辺謙とサリー・ホーキンスくらいだけど、新規キャストはカイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、ミリー・ボビー・ブラウン(以下ミリボビちゃん)、チャン・ツィー、チャールズ・ダンスなど。

前作「ゴジラ(2014)」よりも更に日本版のゴジラのノリ(しかも昭和っぽい)に近付いた。
本作のストーリーは冷静に考えると狂気の沙汰なのであまり突っ込んではいけない。
ヴェラ・ファーミガはホラーな目に遭っているかホラーなことをしているイメージしかない、今作での通称はサノスおばさん。渡辺謙は事あるごとにゴジラの居場所を気にしている、彼の去就はシリーズファンの中では賛否が分かれそう。

何といっても人間キャストのホープはミリボビちゃん、混沌とした展開に差す一筋の光。最近「ストレンジャー・シングス」もぼちぼち観ていっているので、その存在感に驚かされる。
ミリボビちゃん×モンスターの組み合わせはこの先鉄板になりそう。VSコングでも続投してるようなので成長と活躍が楽しみ。

モナークという組織は怪獣保護のNGOみたいなものかと思っていたけど、本作では移動要塞を持っていたり、核兵器を用意できたり、ミリボビちゃん救出のために地獄と化したボストンへ降りたったりと色々と驚かされる。

前作ではMUTOだった怪獣の総称は今作からタイタンに統一、学名にもタイタヌス・〇〇と付けるなど生物として描写が濃くなる。
KAIJUという単語は海外でも認知されているものの、急に日本語の単語を使うのも変だし本作の怪獣の設定的にも“巨神”と呼んだ方がしっくりくる。

本作のゴジラ先生はまるで昭和シリーズのようなヒーロー寄りの立ち位置。前作の時点でもどちらかといえば善玉に描かれていたけど、愛人設定のモスラの登場もありより明確になる。ベビーフェイスとヒールのゴジラどちらが好きかは、好みが分かれそうだけど、個人的にはヒールのゴジラは少し食傷気味になってきていたので、モンスターバースでの設定は気に入っている。
初代ゴジラを模した背ビレに生え変わり、日本版でおなじみのゴジラのテーマもついに搭載されたため、これまでのハリウッド版とは比較にならないゴジラ映画“感”。

本作のヒール役を担うキングギドラはまさにハリウッド版に求めていたロマンが詰まった夢の怪獣になった、こんな奴が世界を滅ぼしに来るとか全怪獣ファンは嬉ションしていることだろう。引力光線を放つ時だけ金色に輝くところとか、この世の終末感あって最高に厨二格好良い。何より驚いたのは3本の首それぞれの性格が違うことで、操演で表現されてきた日本版にはなかった設定。
色々な不名誉なあだ名をつけられたラドンも登場シーンからの5分間は最高にカッコよかった。

日本版オマージュの演出が多いのは嬉しい反面、オリジナリティに乏しいともいえる、結構頻繁に挟んでくるので既視感にもなってしまっている。オキシジェン・デストロイヤーやバーニングゴジラ、4体の東宝怪獣の活躍は130分の尺では詰め込み過ぎとも感じた。

本作で一番のツッコミどころは怪獣ディープインパクトのシーンだろうか。10万トンのゴジラが雲の上から落ちてきたらボストンどころかアメリカ大陸が消滅しそうな気がするけど、真下のミリボビちゃんたちは何事もなく無事なのは流石に笑ってしまった。そういえば「パシフィック・リム」でも似たようなシーンがあったような気がする、レジェンダリーは時々真剣に馬鹿な演出をやってくれるので好き。

爆笑できるツッコミどころはまだまだあるけど、それ以上に家庭の事情でボストンの地獄に放り込まれるモナークの方々やゴジラを復活させるためにゴジラの家をフッ飛ばしたり、小学生が考えたようなエンドロールでの奇跡の数々とかが馬鹿々々しいのに、多分これが20年前の最初のハリウッド版が公開される間に期待していたもので、時間が経って諦めていたものなので、それが形になっていることに感動もしている。

もう一つ形になっていないもの、キングコングとゴジラは結局どっちが勝ったのか。もうすぐそれが答えになる  …といいな。