しんご

深夜食堂のしんごのレビュー・感想・評価

深夜食堂(2015年製作の映画)
3.9
F1レース中における燃料補給やタイヤ交換・車両整備を行う「ピット」になぞらえば、本作の舞台たる「めしや」は都会のピット・ストップに当たる場所だと思う。

「めしや」を訪れる客たちは大きな事件に関与している訳ではないが、日常生活の中で何か心に小さな棘が刺さっている状態。そんないわくあり気な常連客を見守る名も無き「マスター」役の小林薫の演技はドラマ版に続き相変わらず渋く格好いい。ワイドショーのご意見番の様に他人の人生に過剰に口は挟まないけど、その燻し銀の風貌と時おり放たれる優しい言葉は本作で扱われるどの料理よりご馳走である。

ドラマ版でもそうだが、本作は演劇で活躍している役者さんを多用しているのでいい意味でキャラの「先入観」が外れ、本当に新宿のその辺にいる常連客に見えるのが味わい深い。映画版ではビッグネームの役者さんを使用するのは仕方ないにせよ、ドラマ版の味わい深さは全く損なわれていない。

中でも、「ナポリタン」の高岡早紀の飄々として浮世離れしたたま子さんと「とろろ飯」の多部未華子のみちるちゃんが印象に残る。多部さんは作品ごとに化けるというか観てて本当にエモーショナルな気分にさせてくれる役者さんだなと思う。土鍋に入ったとろろご飯がもの凄く食べたくなった。

震災ボランティアと被災者の恋、ドラマ版と異なりコメディリリーフとして場を和ませる小暮役のオダギリジョー、ラストで持っていく田中裕子と他にも演出の隠し味が何段にも効いた作品。
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