あーさん

駆込み女と駆出し男のあーさんのレビュー・感想・評価

駆込み女と駆出し男(2015年製作の映画)
4.0
映像がとても美しい。
同じく原田監督作の「関ヶ原」の時もそうだったが、日本だけでなく世界を意識したクレジット。
タイトルデザインも洒落ている。

これは北鎌倉に実在した駆け込み寺、東慶寺を巡る女達のお話。
いつの世も離縁したくてもできなくて泣かされるのは女ばかり…。
原案は井上ひさしの「東慶寺の花だより」。


1841年(天保12年)江戸。
世は水野忠邦の天保の改革の頃。質素倹約令が出され、幕府権力の強化のため贅沢な生活は禁じられ、風俗の取り締まりが行なわれていた。。

いきなり捕らえられた女達が歩かされるセンセーショナルなシーン、何ゆえ?女義太夫達が一体何をしたというのだ?路上にて芸を披露しただけで、、?
"愉しいことは、全部悪いことかい?" この物語のタイトルにもなっている"駆け出し男" 物書きを夢見ながら医者見習いをしている中村信次郎(大泉洋)が叫びながら逃げていく。行き過ぎた幕府のやり方に反発する人々が"そうだ、そうだ!"と加勢する。

「日本のいちばん長い日」でも「関が原」でも思ったが、原田監督の歴史物は決してわかりやすくない。今作の戯曲風の独特のセリフまわしも輪をかける。なので、その時代の最低限の知識はあった方が鑑賞しやすいことは確かだ(今作ならば江戸後期)。しかし、そこに囚われ過ぎない方が良いのではないかと思う。全部理解しようとしなくても、伝わるものがあればそれで良いのではないか?
観終わってからこれはどういうことだろうか?と色々と調べるのも楽しい作業である。
多分、私はこの監督との相性が良いのだろう。原作が読みたくなるのもいつものこと。。

登場人物が主と従(いわゆるメインとモブ)にはっきり分かれておらず、各々がしっかり存在を主張しているので話に奥行きを感じる。

二人の駆け込み女であるお吟(満島ひかり)と、じょご(戸田恵梨香)がとても良かった。特に戸田恵梨香の演技は上手いと思ったことはないのだが(失礼!)今作では殊の外なりきっていて好印象。
この二人の駆け込みの事情とその行く先が見所である。

今作の大泉洋は役に合っていて好きだった。
コミカルな役がドンピシャなのに最近、ちょっとハードボイルドみたいな似合わない役を気取ってやったりしていたので(好きな方、ごめんなさい!)興味をなくしていたのだけど…うん、やっぱりこの人はちょっと情けないけど、心根は良くてやるときはやる!みたいな役が好きだなぁ。。

脇を固める俳優陣も、柏屋の女主人 源兵衛役の樹木希林、番頭の女房お勝役のキムラ緑子、曲亭(滝沢)馬琴役の山崎努、円覚寺の住職役の麿赤兒など個性的な面々で間違いない。
個人的に贔屓の北村有起哉が出ているのが嬉しい!(→水野忠邦の腹心、鳥居耀蔵役だから今作では悪人だけど。)

法秀尼(陽月華)が細かい事をゴタゴタ言う者に対して"法秀がそう申しておるのじゃ!"と一蹴する場面が何度も出てくるが、言われた者がすぐ引っ込むのが気持ち良い。全く融通が利かない者が多過ぎる。"法とは誰の為にあるのか⁈ "ということを改めて考えさせられる。

好きなのは"アジ売り"の話と"お吟と堀切屋の旦那"の話。
満島ひかりも良いけど、旦那役の堤真一が泣かせるねぇ…。
あたしゃ、人情物には弱いのさ。。

訳あり、虐げられた女達が駆け込み寺で成長して自分を取り戻していく様子が清々しい。

いつの時代もクズな男どもというのは始末に負えねぇや…。
改心したとはいえ、武田真治も堕ちたねぇ。。ってそれは役の中での話かい。
おっと、いけねぇ、、いつの間にやら口調が江戸っ子に…。

笑いと涙のバランスが絶妙、エンタメとしても歴史物としてもちょうど良い塩梅で楽しめる作品だった。
最近ちょっと時代物、ハマってきたかも笑

(所々セリフが聞き取りにくいので字幕ありで観ることをおススメ)



MEMO
*この頃、人情本も流行したが幕府に禁止され、お上の検閲が厳しくなっていた。今作の最初の方にちらっと出てくる為永春水などは処罰の対象に。
その中にあって勧善懲悪の読み本が盛んに読まれ、中でも曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」が人気を博していた、、という背景がある。

*東慶寺は明治維新以後、1871年に縁切り寺法が廃止され1873年に女性からの離縁が認められるようになり、室町から続いた600年余の縁切り寺の役割を終える。
今は駆け込みでも尼寺でもなく、四季折々の花が美しい、落ち着いた寺院として北鎌倉に位置する。
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