せーじ

駆込み女と駆出し男のせーじのレビュー・感想・評価

駆込み女と駆出し男(2015年製作の映画)
3.9
【文末に新企画のお知らせ&募集があります】

248本目。
2020年最初に選んだのは、こちらの作品を。
以前「最初の晩餐」評で戸田恵梨香さんが出演されている作品を観たいと書いたところ、複数のフォロワーさんたちから勧められ、この機会に選んでみました。




…うん、まぁ、面白かったです。
ちょおっとクセが強かったですが。

江戸末期。「駆け込み寺」として有名な鎌倉・東慶寺を舞台に、離縁を求めてやってきた女たちの事情を聴く御用宿・柏屋で居候をしていた医者見習いの男が、様々な女たちと出会うことで、人間的に成長をしていくお話。
冒頭からテンポが速く聞き取りづらい会話が成されながら、特に何も説明されずにどんどん話が進んでいってしまうので、訳が分からずに混乱しそうになってしまいますが、それがむしろ映画そのものへの強烈な"導入"として機能しており、気がついたら完全に目が離せなくなってしまっていました。聞き取れないセリフも、現代の日本とは違う世界なのだと思わせる説得力がありましたし、着物やセット、所作などの考証もかなりリアルな路線でまとめられており、安定した構図も相まって、時代劇としては物凄く真面目に作られている様に感じます。そこにさっきヤジっていたはずの大泉洋さんが、白目をむいた状態でぶっこまれていくので、まんまとこの作品の魅力にハマってしまいました。
何といっても、この作品で一番素晴らしいのは大泉洋さんの演技でしょう。彼の飄々とした資質にピッタリな役柄でしたし、中盤の歌舞伎役者っぽいチンピラ相手に口八丁で追い返すという見せ場では、その痛快さにシビれて思わず笑いながら拍手をしてしまいました。また、ヒロイン役である満島ひかりさんと戸田恵梨香さんも素晴らしかったです。特に、満島ひかりさんの艶っぽく儚げな雰囲気は、彼女にしか表現できないであろう存在感だったと思いますし、戸田恵梨香さんは朝ドラの番宣番組ですごく落ち着いていらっしゃったんですけど、どうしてそんな泰然としていられるのかが、この作品を観て少しわかった気がします。間違いなくこの作品と朝ドラの戸田恵梨香さんの演技は、繋がっているなぁと思いました。
もちろん、樹木希林さんや堤真一さん、武田真治さんなどの脇を固める役者の方々の演技も素晴らしかったです。

ただ…

安定感のある格調が高い映像が撮られており、かつ、役者さん達の演技はこれ以上ないというくらい素晴らしかったのですが、自分はこの作品、悪い意味でクセが強すぎるのではないかなと思ってしまいました。というのは、映像自体は安定感のある構図を基に撮られてはいるんですけれども、カット割りがものすごく鋭いブツ切りなんですよね。で、それによって物語の余韻や読み取りたい情報が刈り取られてしまっているように感じてしまったのです。平たく言うと、場面転換などの繋ぎの演出がすごく雑なのではないだろうかと思ってしまいました。
もちろん、鋭いカット割りが良い方向にキマっている場面もあるにはあったんですけれども、唐突に話が転がってしまう場面が何か所もあり、それを追って物語を理解するのにも要らない労力を使わなければならなかったりして、自分としてはあまり好きにはなれなかったです。これは好みの問題なのでしょうけれどもね…。
加えて物語上の展開においても、東慶寺のトップである法秀尼が、戸田恵梨香さん演じるじょごさんのことを入山してからずっと特別扱いしている…というのもちょっと気になってしまいました。「何か理由や理屈があってそうしている」のであるならばわかるんですけど、法秀尼は周囲にそのことを咎められても感情的になるだけで特にそれを具体的には示さないのです。一方でじょごさんも法秀尼にそこまで信頼されるような積み重ねを具体的に見せようとしている訳でも無いので、観ていて「甘やかしすぎなんじゃないのかこれ…」と思ってしまいました。もっとも、じょごさんは冒頭から武田真治さん演じる旦那に酷い目に遭わされており、そこで強い感情移入が成されると、彼女に味方をしたくなってしまうという感情的な力が働くので、彼女が多少ルールを破ったりしていても、気にならなかったりするのでしょうけれどもね。ただ、それだったら最終的なじょごさんの"決断"にきちんとロジックをつけて欲しかったですし、そういった積み重ねのロジックを読み取ろうにも、先ほどの鋭いカット割りが邪魔している様に思えてしまって、ドラマの積み重ねが見えにくく、実際されていない様に思えてしまいました。
つくづく残念だなぁ、勿体ないなぁと思ってしまいます。

※※

とはいえ、こんなことを気にしてしまうのは、天邪鬼な自分だけなのではないかなと思います。基本的には安定感のある美麗な映像をもとに、リアルで泥臭い時代劇をたっぷりと味わうことができますし、大泉洋さんをはじめとする芸達者な俳優さんたちの競演が堪能できる一作になっていると思います。
ちょっとクセが強いところもありますが。
興味のある方は是非是非。

※※

ということで、新年早々、こんな企画を立ててみました。題して…

【第二回地獄めぐりツアー 地獄めぐりリクエスト大会】
昨年大きな反響を呼んだ「地獄めぐりツアー」が帰ってきました。
今回は無謀にもみなさんからリクエストを募りたいと思います!

【概要と応募条件】
☆一人一作まで(複数挙げた方はその中から一作選びます)あなたが観ていて「地獄だ・・・」と思ってしまった作品を理由を添えて以下のコメント欄に投稿してください。後日、実際に鑑賞してレビューをさせて頂きます。
☆既にレビュー済みの作品は除外させて頂きます。
☆関東近郊のTSUTAYAで借りられそうな作品でお願いします。
☆過度にエログロホラーな作品はご遠慮くださいませ。

締め切りは1月10日まで。
1月中旬以降のレビューで書いていきます。

※これまで頂いた地獄めぐりツアーとしてのリクエストも、こなしていきたいと思ってます。

という訳で、皆様今年もよろしくお願いしますm(__)m
せーじ

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