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ハッピーボイス・キラーのろのレビュー・感想・評価

ハッピーボイス・キラー(2014年製作の映画)
5.0

「自分でやったことだけど、そうじゃない気がするんだ」
「人間の頭の中は複雑だな」

私の頭の中がそっくりそのまま映像になったんじゃないかと思うぐらい、侵入思考のメカニズム(勝手に浮かんできてしまう考え)がリアルに描かれていて本当にびっくりした。そうだよ~そうなんだよ~って共感ポイントがめちゃくちゃたくさんあって、それが嬉しくてたくさん笑った。

「おまえは会社の人にも嫌われてるし、彼女とも釣り合わない。お前はのろまでダサいんだ」
ネガティブな声をジェリーに吹き込む猫ちゃんは、彼の不安と自責感を常に煽る。そんな声ほどペラペラと饒舌で、本当は事実じゃないのにそれっぽく聞こえるもんだからつい惑わされてしまう。

薬を飲んでいない世界はあたたかく、猫や犬や生首の声もちゃんと聞こえて、自分は独りぼっちじゃないんだと安心する。だから猫は「薬を飲んだら暗くて孤独な世界に迷い込むぞ(現実は辛いぞ)」とジェリーを脅してさらに勘違いさせる。薬の奴隷になるなと言いながら、病気の奴隷にさせていく(症状を悪化させる)のだからタチが悪い。

本当は殺したくないのに殺してしまって、そうすることで自分自身を傷つける。
どんどん孤独になっていくことが自分でも分かっているのにやめられない。
だけど猫は「もっと殺したいんだろう?」と囁く。
「たまたま殺して快感だったんだ。わざとならもっと快感かもしれないぞ?」
ジェリーはその声に耳を傾けつづけた結果、一人では手に負えなくなっていく。
猫、犬、三人の生首の声が頭の中で反響し、どんどん溢れて洪水になってジェリーを飲み込んでしまう・・・

このところ毎晩、茂木さんの本を読んでいる。
マインドフルネスについて書かれたページにこんな記述があった。
「人間は、1日6万回思考しているといわれ、そのほとんどが自分の意思とは無関係に自動的に湧いてきます。これを放っておくと、思考や感情が自動操縦状態に陥ってしまい、未来に対して不安を感じたり、過去の出来事を思い出して後悔する時間が増えていきます」

自分を全然ハッピーにさせてくれない声に振り回されて、殺人鬼になってしまったジェリー。
大切なものをたくさん失った彼が最後に選んだ声は・・・

「あなたは悪い子よ」
「いや、いい子だ」
「違う。お前はお前だ」


( ..)φ

「先生も声を聞くの?」
「ええ、考えに取り付かれることがあるわ。”自分は太ってる”とか”セラピーなんて無意味だ”とか」
「全部事実と違うけど、そんなときどうするんだ?」
「考えを消し去ることはできない。でも抵抗することはできる。考えに従う必要はないのよ」

本当はこうだったんじゃないか、やっぱり自分が間違っていたんじゃないだろうか。
あのタイミングで話すのは迷惑だったんじゃないか、たしかに相手の様子もいつもと違ったような気がする。
そんな考えが浮かんで不安になったとき、「現実には何も起きていない。私の頭の中で勝手に起こってるだけだ」と唱えるようにしている。
浮かんだ声は妄想なのかそれとも事実なのか、一人で見極めるのは難しくて母に手伝ってもらうこともある。(病気に思いこまされてしまうからあたかも事実のように思えてくる)

事件は現場でも会議室でもなく、自分の頭の中だけで起きている。
「かもしれない(不安)」が「そうに違いない(確信)」に変わる前に、なるべく現実に戻ってきたい。

自分の心の声との付き合い方を模索する中で、こういう映画に巡り会えること。本当に励みになるなぁとしみじみ思った。
エンドロールの超ハッピーミュージカルでちょっと泣いた。泣きながら大笑いした。
ろ