140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ドクター・ストレンジの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ドクター・ストレンジ(2016年製作の映画)
3.9
”正解”

「とある魔術の天才医師(ストレンジ)」

完全にIMAX3D含め劇場という特殊空間のおいて、眼前に広がるド派手で大情報量の”マルチヴァース”の壮大さと、脳をグラグラさせるような映像の根性勝負という大仕掛けを”体感”する映画となっている。

マーベル作品として単体のスタートとしては、完結型に見えながら奥行を着実に仕掛ける様は侮れない。しかし眼前に広がる世界のハイスピードかつドラッギーなパノラマイズムが、想像力を超えたところにあるため、万人受けというか、飲み込めない、消化しきれないというリスクも多様に含んでしまう結果となっている。そしてテクノロジーが巨大なまでに発展した現代において、”魔術”や”東洋的神秘”、さらにマルチヴァースの力を利用するというオカルティックなハードSF性に、赤マントの口髭ヒーローというウナギを大量に乗せたトラックと梅干を大量に乗せたトラックが正面衝突するような圧倒的な”異世界”感をビッグバジェットで解き放っている。食い合わせが悪いがゆえの、赤マントヒーローが病院内で走る姿は滑稽すぎて、居心地が悪い(笑)。

しかしながら、科学と魔術が交差する序盤のストレンジが、エンシェント・ワンに世界的イジメをされるシーンは凄まじいドラッグシークエンスから、マルチヴァースのお茶目に使いしながら、寝ながら勉強するという反則構図、幽霊の正体を期待的に考えさせるオカルティなコメディ演出と豪華役者陣営が真剣に演じる不真面目感と紙一重の大真面目感が、ぐらついた日常を提供してくれるという”映画的”な”体験”としては申し分ないと思う。特にヒロインがストレンジのアストラル体にビビりまくるレイチェル・マクアダムスはとことん可愛い。現実に引き戻されつつ物音ひとつに文字通り飛び上がって驚くシーンは、今年公開の映画の中でも指折りの名シーンかもしれない。吹き替え版は松下奈緒さんと本職女優の人なのだが、声質と抑揚も含め、坂本真綾と勘違いしてしまう場面がところどころにあって意外な収穫。

最終決戦のシークエンスは駄作臭のするシークエンスで、その前の大都市をこねくり回すような大迫力シーンにスティールされたかと思いましたが、今までに見たことのない逆再生の濁流の中に、知恵と英雄的思考を組み合わせたストレンジの成長した姿に相応しい落としどころがあった。

未だかつてない映像体験というものは科学により進歩し続け、魔術に限りなく近づけるその日まで、劇場という日常の中のファンタジーを追い続けたいと思える作品。