ぬーたん

博士と彼女のセオリーのぬーたんのレビュー・感想・評価

博士と彼女のセオリー(2014年製作の映画)
4.5
素晴らしいのひと言。
丁寧に丁寧に作られ、一番大事な、主人公ホーキンス博士とその妻ジェーンへのリスペクトが感じられる、愛に満ちた作品。

イギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキングの半生を描いた実話。
まだ20代の学生時代にALSを発症し余命数年と診断されるも、体が不自由になったとはいえ75歳の現在もご存命である。この映画を観て涙を流されたそうだ。

主役スティーヴンを演じるのは、日本ではまだ無名に近かった、エディ・レッドメイン。この映画は彼の演技あってこそ。
全く知らない俳優で、特に華もなく、どうかなと思う出だしだったが、途中からもう、ぶったまげた。
段々と自由が利かなくなる体と言葉。でも頭はしっかりとして、研究に没頭しながら、家庭や友人や自分の未来に思い悩む姿を、リアルに演じた。
実際にホーキンス博士に会い、動画を見て半年かけて役作りをしたという。それにしても凄い。
すっかり、エディのファンになってしまったわ。

スティーヴン、ジェーン、ジョナサンの奇妙な三角関係も、其々の想いが見えて来て、何とも苦しく切ない。
ジェーンはフェリシティ・ジョーンズ。強く愛情豊かな妻をキリっとした表情で。
ジョナサン役はチャーリー・コックス。『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』同様、穏やかでいて内に秘めた強い思いが良く表れていた。

コーヒーに入れたミルクが渦を巻く。セーターの縫い目越しに見るストーブの炎。日常の些細なことから閃く理論のヒント。
スプーンを口に持って行くことさえ難しくなった彼が見る、友人たちの手元、手元。自由に何の苦もなく、動く手。
そんな表現が、自然でとても上手な作品だ。

映像も景色も色彩も素敵。
いかにもイギリスらしい、きちんとした身なりの人たちや、素朴な家の中。

何ということのないシーンでも、ふと泣けて来る。その奥に見える悲しみや喜びをいつの間にか共有していた。

過去に戻っていくシーンが良い。苦しみも悲しみもあったけど、最後はとてつもなく名誉な場所に佇む。全ては良しだったと。そのラストが心地良い。

エンドクレジットの宇宙の背景と音楽もいい。
お見事でしたっ。
ぬーたん

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