ねこたす

ストレイト・アウタ・コンプトンのねこたすのレビュー・感想・評価

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もちろんラップを扱った映画としても格別に面白いし、N.W.Aのことを知らなかったラップ弱者の自分でもそれは変わらない。
それ以上に、青春のひと時として心臓が痛いほど感動してしまった。

何よりN.W.Aを演じるそれぞれの存在感がすごい。写真を見るとそっくりなのだ。実の息子が演じているアイス・キューブは納得だが、イージー・Eを演じたジェイソン・ミッチェルの演技っぷりは見事である。

もちろんN.W.Aの中心人物だったからでもあるが、主人公のように描かれるイージー・Eに感情移入してしまってしまって。
一発目のディスク回しから才能を見せるドクター・ドレー。スクールバスの中でも詩を書き、ラッパーとしての成功を夢見るアイス・キューブ。
そんな二人に比べると、ヤクの売人のイージー・Eはただのチンピラだ。(4000万円稼いでたらしいから、チンピラはおかしいかな?笑)

そんなイージー・Eをドレが誘い、一緒にビジネスとして成立させる。「お前が金出したんだから、Youラップしちゃいなよ」と唆される。最初は本当に酷いラップを披露するが、サングラスをかけ、本音を心から出す。その音楽が生まれる瞬間の素晴らしさといったらない。

ガッと売れて、あっという間にアメリカ各地をツアーする人気グループになる。それも流れる曲やライブシーンを見ていれば納得できる。とにかくかっこいい。自然とリズムに体がノッてしまい、周りの人に迷惑をかけていなかったか心配なところ。

アメリカ一治安が悪いと言われたコンプトン出身の彼ら。キング牧師の活動が実り参政権が与えられても、偏見からくる差別は簡単に無くならない。優等生であるアイス・キューブにとって悪いこととは縁が無いのに、歩いているだけで警察に因縁を付けられる。反抗すらしない彼は諦めというか、もはや達観しているよう。

そう、彼らは暴力の連鎖に加担しない。大切なものを奪っていく暴力を許すわけがないのだ。思っていることがあれば、それを詞にし歌にのせラップでぶつけていく。煽っているのではない、真実を描いているだけなのだ。
それがお上の皆さま方の目に触れ、弾圧されそうになる。憲法第一条に書かれている言論の自由なのに。これが許されなければ、誰が最底辺の彼らの事を歌ってくれるのだろうか。
理想を歌った「イマジン」が規制され、現実を歌った「ファックザポリス」もまた弾圧されるのだ。皮肉なもんだ。
警察はコンサートで歌うなと脅している場合ではなかったのだ。警告を無視した代償はでかかった…。

TVで流れる映像。史実として知っている"ロス暴動"も、物語の一部として、その当時の空気を表現し通底するものとして考えると胸に刺さった。

彼らをプロデュースする白人のジェリー・ヘラーも最初は才能を評価し警察の偏見からも守ろうとする。しかし、大金が絡みN.W.Aもだんだん壊れていく。(ほんとユダヤの白豚が!)

栄光の時間が、ふとした隙に壊れていく。この儚さが悲しくて悲しくて。ジャージーボーイズやソーシャルネットワークに似た感情だし、レット・イット・ビーのPVを見ている時のやり切れない気持ち。

才能ある二人が、その後売れていくのもある意味で当たり前なのである。その成功を見た時のイージー・Eの気持ちはどのようなものだったろうか。妬みや自分が落ちぶれたことを悔やむ、そんなものでは決してないと思う。
もちろん、なんであんなつまらないことをしてしまったという申し訳ない気持ちもあるだろう。それ以上に心の底から、あの楽しかった時に戻りたいそんな純粋な気持ちであったと思いたい。

そんな気持ちが通じたからこそ、和解も出来たのだろう。再結成は叶わなかったが、魂の救済はされた。
嫌なことや裏切られたこともあったのだろう。それでも、友達との楽しい楽しいな思い出が色褪せることは無い。
EDではその影響力の大きさ、一ジャンルを築いたその偉大さがより実感できる作りになっている。