Jeffrey

ムーンライティングのJeffreyのレビュー・感想・評価

ムーンライティング(1982年製作の映画)
4.5
‪「ムーンライティング」‬

‪冒頭、1981年12月5日。
4人のポーランド人、ワレサ率いる独立自由労働組”連帯“。戒厳令、1ヵ月間の観光ビザ、空港、共同出資、連日の万引き、音信不通の妻、喧嘩、秘密。今、不法労働者の苦難が映される…

本作はイエジー・スコリモフスキ監督がJ.アイアンズを主演にした社会派ドラマで、1982年イギリス映画。この度、初見したが傑作だった。この映画冒頭から緊張感に包まれる演出で非常に好みだ。

まずジェレミー・アイアンズ演じる主人公のノヴァクが1人称でポーランドのラースロー空港から英国に入国するまでの過程を語る。

そこで1人の老婆がカートをどこで見つけたと話し、彼はカートを差し上げる。

続いて挙動不審になりながら空港を後にし、ティナターナーのショウを見る4人の回想。車に乗り目的地へ向かう。

ここは依頼主の別宅である。
廃墟と化したその自宅を調べ、彼らは近くのスーパーに買い物に出る。そこで女性が万引きをして捕まり通報される。

続いて別宅に戻り作業を開始し、公衆電話でワルシャワに連絡をする。部屋の壁をぶっ壊し始める彼ら、そして奥さんだろうかアンナと言う女性の写真を壁に貼り眠りにつくノヴァク、翌朝教会へ。

娯楽費を使う彼(ここで写真の女性が妻と言う事が判明する)。

続いて必要な道具を購入する為にお店へ行く。解体と破壊は続き、それらの描写が流れる。

そしてまた公衆電話で電話をした時に母国がクーデターにより危険状態と知る。ポーランド行きの便を手配しようとするが、すべて欠航で頭を抱える。

それを仲間に黙るノヴァク。続いてゴミの量が多いと関係者が路上にゴミをぶちまける。そこで一悶着。結局他人のコンテナにゴミを捨ててしまい、ここで初めて第三者から不法労働者(ムーンライティング)と言う言葉を使われ非難される。

続くラジオでポーランドの戒厳令の情報を収集する。続いて天井から水が漏れるトラブルが発生する。続いてスーパーで悪知恵、食料の買い出し、そして男4人でクリスマスを七面鳥と共に祝う…と簡単に説明するとこんな感じで、不気味なサウンドと共に部屋を解体していく描写は迫力がある。

クリスマスに子供たちが家を回って歌を歌う場面で、彼らの家にやってくる子供たちと彼らがおふざけする場面は可愛らしい。

パトカーのサイレンを聞きとっさに車の影に隠れる4人の姿を見ると如何に不法労働者の生活の大変さがわかる。それでも不法は看過できないが…。

主人公のアイアンズは背丈もありルックスがかっこいいが、ちょび髭で挙動不審な役柄が見ていて滑稽だ。

スーパーでレシートを使った詐欺的な万引きをしているのだが、これ普通に成し遂げられるはずがないと思うんだけどなぁ…観た人なら分かる。

この映画ラストがとんでもなく印象深い終わり方をする。

それにしても資本主義社会の象徴とされているコカコーラを目の前にした仲間がはしゃぎ始めるシーンはなんとも興味深いし、何せ戒厳令のひかれた事を第三者から聞かされ、占拠されたポーランドの街をニュース映像で見て、そこには戦車と兵士たちに囲まれている祖国があると言う現状を遥か彼方の英国で味わう主人公のこの気分がなんとも恐ろしく辛い心情だろうとスクリーンから察す。

あまり言うとネタバレになってしまうが、どうしても言いたいことがまだ数カ所あってそれが結局主人公がポーランドにいるボスに指示され、解体を期限内にやり通そうとするも、

戒厳令を仲間に言ってしまうと仲間が仕事を放棄してしまうんじゃないかと言う恐怖心とポーランドに置いてきた彼女から音信不通のまんまで、もしかしたら自分を雇っているボスと何かあるんじゃないかと言う不安もあるし、

何より時間が足らないとの事で腕時計の針を遅らせると言う細工を使って仲間たちに睡眠時間を奪わせ、1日の労働時間を更に増やすと言う卑怯な手まで使ってしまう精神に追い込まれているノヴァクの気持ちが見てるこっちはかなり複雑な思いになる。

それに彼が恐れていた仲間の反抗的な態度も新年を迎えるとともに発生し、作業の遅れを恐れるあまりに3人を今まで連れて行ってたポーランドの教会も行かせないような独裁的な行動をとり、必要な機械も買わなくてはならないが資金が足らず、仲間のボーナスを保証金に当ててしまったりして仲間がブチ切れて泥棒呼ばわりし家を追い出されてしまうノヴァクが余りにも可哀想で…でも一応悪い事は本人もしているし、なんとも複雑だ。

結局、彼は野宿してしまうし寒空の下ど…。

いやーこの度、初見したけどこの映画は水準的にも評価はされている方だが、私は遥かに評価したい。

監督のフィルモグラフィーの中でもダントツに好きと言える1本だ。僅か11日間の執筆で完成させた脚本の中身がこうも雰囲気のあるものになったのは流石である。

余談だが、彼らが解体する家は監督自身の自宅らしい。映画撮影のために一時的に妻と子供を仮住まいに住まさせたと言う徹底ぶり。

しかも変わらずの早撮りで、短期間に撮影を撮り上げたらしい。さらに荒れ放題の状態と変貌させるために美術担当が踏ん張ったとのこと…。

主演を演じたアイアンズは低予算ながらも監督にそもそも興味があったらしく、脚本に魅了され金儲けよりも出たいと言う気持ちになったらしい。

ところがスタッフも同じく強行スケジュールのせいで全員が病気になって困難だったらしい。監督自身も病気を起こしたが病院にいかず撮影を続行したと言う…このやり遂げる信念は今を生きる監督には中々無いだろう…。

それにこの4人のうち1人はポーランド系英国人俳優で、もう1人がチェコ系英国人俳優なのだが、残りの1人は職業俳優ではないポーランド人で、本業は大工との事。この点は納得がいくだろう…なんたって解体する映画なのだから…。

彼の今までのメタファーだらけの小難しい作品とはうってかわって「早春」と同じく分かりやすく、非常に楽しめる映画だ。とは言え内容はポーランドの悲劇を基調してるし、多少のメタファーはある。

これはお勧めできる傑作だ。ユーモアがあって皮肉も交え革新的で不条理主義を浮き彫りにした政治や権力のテーマを男4人に投げつけ、‪寓話化し歴史的事件を映した傑作の1本だ…最高。‬
Jeffrey

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