垂直落下式サミング

我々は有吉を訴える 謎のヒッチハイク全記録の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.8
毒舌キャラを打ち出した再ブレイクで人気テレビタレントの仲間入りを果たした有吉弘行が、12年ぶりにヒッチハイク旅を企画し、東北横断に挑戦する。タレントとテレビマンが実名で登場するため、現実と虚構の境があいまいで、これが妙な緊張感を演出している。
海をバックに哀川翔のモノマネで登場する有吉。謎にロケーションが絵になっていて、北野武作品のワンシーンを連想させるが、よくみると海は汚い。灰と茶の濁り色。キタノブルーならぬマッコイグレー。
旅の最中、有吉は下衆さを全快に素人を騙すなどルール違反を繰り返したことで、過度な演出とヤラセを嫌うスタッフたちと対立していく。有吉がふて腐れて悪態をつく様子は、テレビマンとの力関係が変化した今だからこそできる電波少年への復讐にみえて、ちょっと応援してあげたい。
有吉の再ブレイク直後の多忙な時期に撮られた作品であり、本人の風貌や言動が妙に殺気だった雰囲気を残しているため、演技の迫力は満点。ガチのあたおかの人にみえる。ちなみに、本作で有吉が嘘をついて上がり込むのはマッコイの実家。
マッコイ斉藤は、番組に参加したがるタイプの時代遅れなセンスのテレビマンだが、これをみるに客観的な自己批評性も持ち合わせているようだ。本作でも、やらたとフレームの外から口を出してくるが、こういうやり方しかできない男の不器用さが浮き上がってきて、あと少し時代に間に合わなかった世代の悲哀が感じられる。モキュメンタリーという手法においては、この五月蝿さがプラスに働いていると思う。
まあ、よくも悪くもファンムービーだ。安田さんが出てきたときのサンドリ感。マッコイとの馴れ合い未満のマスカット感。軍人ロックスターとしての暴君っぷり。このあたりを享受できる人向けの作品ではある。
有吉が時おりみせる人殺しのような目や、同伴者をキツい口調で責め立てたり、ふたりして大声で怒鳴りあったりするのが苦手な人は、普段は絶対に仲がいいであろう気の知れた先輩とイチャイチャする『上島ジェーン』がおすすめ。