GodSpeed楓

ナイスガイズ!のGodSpeed楓のレビュー・感想・評価

ナイスガイズ!(2016年製作の映画)
4.3
70年代アメリカを舞台に据えた最新バディ映画の様相を呈した、2010年代最新のアメリカン・ニューシネマである。但し、バディものには必須のコメディ要素がキレッキレなせいで、なかなか真剣に観るのは難しい非常に陽気な作品である。

「ドライヴ」「オンリー・ゴッド」などのクールな印象が近年際立っており、あまりのハンサムさ故にイケメン台詞を写真に合成されるという格好のオモチャと化していたゴズリングだが、ここにきて皆が忘れてしまっていた演技の幅の広さを改めて証明した事も特筆したい。

本作のゴズリングは信じられない程のポンコツであり、かっこよく決めるべきシーンでは尽く失敗する。この驚異のハンサムが繰り出すコミカルの力たるや。しかも、いちいち女みたいな甲高い声で悲鳴を上げたり悪態をつく。なんて情けないんだ!そして、それに巻き込まれてしまう常識人的立ち位置であるラッセル・クロウの、翻弄される姿を見て思わず爆笑してしまうのだ。役作りのために20kg以上の増量をしたそうだが、うらぶれた中年感が滲み出ており見事にハマっていた。かつて「バーチュオシティ」という正気なシーンの方が少なそうなバカSFアクション映画で、監禁した人間の悲鳴をサンプリングしてオーケストラごっこをしていた奴と同一人物とは思えない。「バーン・アフター・リーディング」でプラピが死ぬほど(実際死んだが)間抜けな筋肉バカを演じたときも最高だったので、僕はギャップに弱い側の人間なのだろう。

割りとあっさりと人は死ぬし、多少のバイオレンス、そしてやたらさらけ出されるエロス成分など、苦手な人が多そうな要素が濃い目に含まれているにも関わらず、コミカルなシーンと大きな温度差が生じることは無い。これは当事者達が不真面目な態度を取り続けている事が大きな要因だろう。BGMや会話の妙で緊張感を取り払い、鑑賞側を決して真剣にさせすぎないのは非常にありがたい。ギャグに寄りすぎるとエドガー・ライト作品みたいになってしまうが、いちいち繰り出されるブラックな言い回しや皮肉は、まさしくアメリカ映画のそれなので安心してほしい。BGMといえば、劇中で使用されていた楽曲がEARTH WIND & FIREやAL GREENなど70年代満載なのも抜群である。Septemberは何故かサビを流さないという謎采配だったので少し消化不良だったが…。

軽妙な台詞、緊張感のなさ、やるときはやるハードボイルド、70年代という舞台、アメリカ国内に潜む暗部への警鐘や疑念、敵の巨大さ…これだけの要素が揃っているのだから、前述した通り本作は紛れもなく最新のアメリカン・ニューシネマだ。特に一介の民間人の力では敵わない相手であり徹底抗戦なんて到底無理である部分はジャック・ニコルソン主演の「チャイナタウン」を彷彿とさせる。

もしも本作の物語を文字だけで追っていれば、非常にスリリングで後味の悪い社会派ミステリと感じるだろう。しかもゴズリングとラッセル・クロウという豪華な演技派W主演だ。こう書いてみると、思わず身構えてしまいそうなものだが、蓋を開ければバカな映画である。思い通りにいかなかった事だって「まぁ、しょうがないよな」と軽く消化し、タフに次を見据えている姿は、まさにハードボイルド。

「どうにもアメリカン・ニューシネマって敷居が…」なんて方には心からオススメする。この作品が登場してくれたお陰で、苦虫を噛み潰すような作品ばかりではないと主張できるようになったというものだ。
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