垂直落下式サミング

デッドプールの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

デッドプール(2016年製作の映画)
4.5
1990年代に初登場した後発キャラにして、現在マーベルコミック屈指の人気キャラへと成り上がったデッドプール主役のX-MENスピンオフ。80年代アクションのノリと下品なブラックユーモアをスーパーヒーロー映画に持ち込んだ極端に偏差値の低い作品となっている。
デッドプールは『第四の壁』を突破したヒーローとして有名だそうで、この男、ただの変態仮面ではない。彼は「自分が漫画の登場人物だと知っている」という反則技的な設定を持つキャラクターで、急に読者に向かって話しかけてきたり、漫画の売り上げを気にしたりと非常にメタい視点で漫画の世界を見ているのだ。
『第四の壁』というのは、演劇用語で現実とフィクションを隔てる概念のことで、普段我々はこの壁を通して映画や漫画だとかアニメで描かれる創作世界を見ている。その壁を一枚隔てることで、観客としてみている我々は「役者が役を演じている演劇」だとか、「絵に合わせて声優が声を吹き込んでいるアニメ」という創作の物語をリアルなものとして信頼できるわけだ。壁の突破とは、それを意図的に逸脱した表現ということなわけです。
例えば両津勘吉が、読者のほうに向かって語りかけてきたり、作者の声を代弁するかのように出版社の悪口を言ったりするのは、漫画の中のキャラクターが読者や作者という自分より高次の存在を認識し、“壁”の向こう側から現実に向けて放つメタ要素を含んだギャグなわけです。古畑任三郎がコマーシャルに入る前スポットライトに照らされて「皆さん謎は解けましたか?」って視聴者に話しかけてくるのも同じで、こういうのが第四の壁の破壊なんですって。何でも調べてみるもんですね、ちょっと頭がよくなった気がします。
さてデッドプールですが、やはり彼が観客に向かって話しかけてくるシーンが可笑しくて、低俗な下ネタも言うし、過去の漫画、映画、役者をネタにして目に入るものすべて皮肉り倒す。意外と設定が重いため暗く湿っぽい雰囲気になることもあるが、話が陰鬱になりそうになる度に得意のうんこちんちんネタに急ハンドルを切る品のよさも持ち合わせている。作劇の緩急のつけ方が非常に上手い。画面のなかで起こっていることだけ取り出せば、残忍なサイコ野郎の大量殺戮シーンだったり、主人公が経験する気が滅入るような拷問だったりするのだけど、間抜けでハイセンスなセリフの応酬に笑ってしまう。
アドベンチャータイムの可愛いファンシーグッズを身に着けた下品な不死身男。そんなムチャクチャを映画の中で見事に成立させたスラップスティック&バイオレントな快作だった。