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FOUJITAのメルのレビュー・感想・評価

FOUJITA(2015年製作の映画)
3.3
画家の藤田嗣治の半生…なんだけど、画家としての作品やあの独特の手法には殆ど触れず、人間藤田の心の在り方や感性を描いているのかな…。

前半は若い頃の1920年代、エコール・ド・パリの寵児としてもてはやされたフーフー(お調子者 )としてのFOUJITA。

後半は戦時中の日本でどう暮らしていたかが描かれていて、日本の原風景とも言える景色が美しく描かれている。しかしそこで作品は突然終わる。

実は藤田にはその次の人生があって、戦争中に従軍画家であったことを理由に彼は日本画壇から戦争責任を押し付けられる。
そして彼は日本から離れる。

藤田が日本を捨てたのは、日本画壇が藤田を守れなかったからかも知れない。そして彼は生涯日本の地を踏むこと無くフランス人として81歳の人生を閉じたのだ。

エンドロールに流される礼拝堂の壁画はフランス国籍を取得してカトリックの洗礼を受けたFOUJITAの死の2年前の作品。

これは藤田嗣治の大まかな人生を知らないと理解し難いし、知っている者には片手落ちにも感じられる作品かも知れない。
あくまでも監督、小栗康平のFOUJITA感だと思う。映画だからそれで良いんだけどね(笑)

以前にTV番組で藤田が自分の声を録音したものを聞いたことがある。
その声は80歳を目前にした老人の声とは違い生き生きとし、嬉々として遊びを楽しむ子供の様でもあった。

「歌麿や北斎の声が残っていたらどんなだろう…と思うので、自分の声を後世の人に聞かせる事もまんざら無駄では無いだろう」と彼は語っていた。

藤田は常に戦争によって人生の方向転換を強いられた画家だけど、心はずっと好奇心に富んでいたんだなと思うし、その声は当時の藤田が不幸では無いことを教えてくれる。
現代の私たちがそう感じる事ができるだけでもFOUJITAが声を残した価値は十分にあったと思う。
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