ジャン黒糖

私たちのハァハァのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

私たちのハァハァ(2015年製作の映画)
3.3
監督で観る映画。
今回は松居大悟監督×クリープハイプ×池松壮亮②。

【物語】
クリープハイプが大好きな女子高生、さっつん、チエ、文子、一ノ瀬の4人。
北九州市に住む彼女らは福岡で行われたライブの際の「東京のライブもぜひ」の一言を真に受け、東京のライブに行くことを決意。
学生ということもあって当然お金もない彼女らは、自転車で東京に行こうとするのだが…

【感想】
まだ可能性しかない女子高生が友達同士で結託した時の無敵感がスゴい。
自分も高校生の時に友達と、地元・町田からお台場まで通学自転車に乗って行ったことがあるが(ちなみに移動距離は片道50km弱)、長距離用に整備された自転車ではない、普通のギア無しママチャリなので日帰りで帰宅する頃には当然だいぶ疲れた。

本作の場合、その比ではない。
何せ福岡から東京、距離にして約1,000km。
自分が1日かけて往復した距離の10倍だが、彼女らが走るのは夏休み、ライブまで残り数日しかない。
一種のロードムービーではあるが、はっきりいって無謀極まりない。
ただ、その無計画さ、なんとかなる精神はさすがは高校生ならではだし、この熱量を画面いっぱいに見せてくるのは良くも悪くも松居大悟監督お得意のノリのようにも見える。


そして当然のことながら、自転車で東京まで数日で行くのには無理が出てくる。
炎天下トボトボと走っていくなか、途中田んぼに自転車を転げ落としてしまい、たまらず愚痴を爆発させる文子。
しかし、ここから先に行くにも戻るにも手段がない。あまりにも行き当たりばったりだから。
この、短絡的な発想の末の喧嘩、映画で観るとついつい笑ってしまうが、正直自分も学生時代に友達と行った旅先でたしかに身に覚えがある。。。笑


途中からはヒッチハイクしていくことになるが、ここで出会う人たち、俳優さんが演じられているのだろうけど、ちゃんと土着感があって良い。
正直、池松壮亮さんが出るクダリだけは他の乗せてくれる人たちに比べると「お、、池松壮亮さんだ…」と顔を知っている分の異質さはあるのだけど、そこは彼の演じるキャラがカバーしてくる。
「こいつ、、乗せてもらうには少し気まずい…」笑


また、途中で金銭的な限界を打破するため、彼女らは“お仕事”をすることになるが、そこでも4人の関係はギクシャクしていく。

この映画、道中でたびたび4人は関係悪化、一触即発しそうなムードになるが、そこで4人それぞれの恋愛観、地元・北九州から見た進学・将来のキャリア、そしてクリープハイプへの想い、など価値観の違いが浮き彫りになってくる。
この、高校時代の危うい関係は大学進学なり、状況なりで一度、環境を離れてしまうと疎遠になってしまうことが多分にしてある。

ただ、それでも彼女たちは一度拗れた関係も、次の瞬間には互いに笑い飛ばしてしまう。
それぐらい彼女たちは“無敵感”に満ち溢れているのだ。



んー、とはいえ、彼女たちのノリが、大人になったいま観ると若干キツいし、道中の出来事にはイライラしてしまったりする。
また、鑑賞環境が悪かったのか、途中音声があまり聞き取りづらかった場面もあった。

特に、のちに『ドライブ・マイ・カー』で超重要な役どころで名演を見せる三浦透子さん演じる文子のちょっと痛いファンは、演技的には実在感あって最高だけど、話の流れ的には痛すぎてちょっと萎えてしまった。。。
いくら“無敵感”を持って仲良く関係修復したとて、お前だけは学校戻ったらちょっと付き合いやめようかな、って自分だったら思ってしまった…笑
これじゃチケット譲ってくれた、中村映里子さん演じるお姉さんが浮かばれんよな…

バランス的には同じくクリープハイプ、池松壮亮との座組で撮られた映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』における2篇目「あたしの窓」に出てくるクリープファンでOLのミエに近いが、彼女と違って文子は仲間との関係において超えてはいけない一線を平気で超えてくる狂気性を若干帯びてもいる。
自分はクリープハイプはアルバム「死ぬまでは一生愛されると思ってたよ」が出た頃ぐらいに少し聞いていた程度なのであまり思い入れはないのだけど、バンドでもこれぐらい強烈なファンってやっぱいるんだな、と思った。
個人的には、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』の4篇目は、池松壮亮さんと黒川芽衣さんのエピソード「傷つける」よりも、本作を採用しても良かったのに、とちょっと思ったり。
ただ、そうすると他3篇に比べてさすがに本作の方がスケールでかいか笑


ちなみに、途中彼女たちがライブ会場を探すため「渋谷あとどれくらい?!」という場面があるが、その場面の背景に映っているカフェの場所から察するに、渋谷まで1時間もかからないんじゃなかったっけ、というのがかなり小さく引っかかった場面でした笑

ただ、福岡と山口を繋ぐ関門海峡に歩いて通れるトンネルがあるんだ、というのは新鮮な発見で、今度家族を連れて行ってみたいな、と思った。
ジャン黒糖

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