ローズバッド

家族はつらいよのローズバッドのネタバレレビュー・内容・結末

家族はつらいよ(2016年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます


一歩も踏み込まない映画


夫に愛されている実感がない妻が、熟年離婚を望むが、夫が感謝の言葉を口にしたら、すべて丸く収まる。
要するに、ただこれだけの、もの凄く都合のいい話。
本作を観た奥様方は、これで納得したのだろうか?

端的に言えば、おじいちゃん、おばあちゃんに「時代は変わってないですよ〜、大丈夫ですよ〜」とウソを吹き込んで、安心させる目的の映画だ。
現在の日本の家族の問題に、一歩どころか、1ミリも踏み込まない。
本作を観て満足する人は、家族や人間関係、仕事や収入など、それなりに満たされていて、要するに、幸せなんだろうと思う。
シングルマザーや、寝たきり老人介護や、徘徊老人介護や、老々介護の家族を、お気楽なドタバタコメディに出来たら、斬新で面白く、意義もあると思うのだが…。

同じ平田家を舞台にしても、家族間の微細な不和に、意地悪な鋭いメスを入れていけば、「歩いても歩いても」や「葛城事件」のような、“ホラー映画より怖いホームドラマ”になっただろう。
僕にとっては、そういう厳しい映画の方が、より大切だと感じる。

現代の世界中の映画が、「血縁によらない家族関係」を思索しているなかで、本作は、昭和的な「血縁の家族」から一歩も外に出ない。
本作のラストでは、「東京物語」が引用されるが、大昔の「東京物語」でさえ、血縁でない家族関係について思索していた。
そして、「東京物語」は、本作のような生ぬるい話ではなく、家族というものの残酷さを描いた映画だからこそ、世界中の人々に響く傑作になった。
(それを、山田洋次監督こそ、よく解っていると思うのだが)

「問題意識を持たない」という思考状態が、快楽を生む。
そして本作が、その快楽に満ちているのは間違いない。
そんな時間に浸る心地良さは、否定しがたい。
しかし、なんとも罪深い。


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笑いどころは、すべて効果音で誘導してくれる。
「伏線」だとか「裏の感情」だとか、観客が考察する必要があるものは、何ひとつない。
役者のセリフによって、すべて順番に説明して、ひとつずつ駒を進めていく。
「同級生が人生につまずき、貧乏探偵をしていること」など、枝葉のシビアな要素は、まるで思索されない。
熟年離婚以外のテーマは、何も描かない。
誰でも解る事を、脚本と演出で、懇切丁寧に、ひとつひとつ語る。
その語りの作法に、安心感を感じて、心地良くなるわけだが、それ自体が、不毛で怠惰な行為のようにも思う。

僕は、本作が対象にしている客層ではないので、もんくを言っても仕方ない。
還暦世代の最大公約数の感性を知ることが出来るという意味では、貴重な映画かもしれない。

思考停止することには、中毒的な快楽があって、それを目的に作られるエンターテイメントがある。
女子高生向けに“壁ドン胸キュン”映画が量産されるように、還暦世代向けに「家族はつらいよ」が作られるのだろう。
人生の先輩たちが、喜んで観ているのなら、まあ、それで良いのかもしれない。



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橋爪功のコメディ演技力が光っている。
本作の面白味のほとんど全てを生みだしていると言っていいだろう。

吉行和子の上品過ぎるキャラクターは、リアリティも無いし、面白くもない。演技力に幅や奥行きが有るのかも不信になる。

夏川結衣は、典型的な専業主婦キャラクターとして、場の“まわし”を担っている。確かな演技力で、役割りを見事に果たしている。

妻夫木聡は、本来なら、もっと重層的な人格を演じられるはずだが、まるでリアリティの無い、カチカチのキャラクターを与えられて可哀想ではある。
シャツのボタンを全て留めている衣装の演出も、損をしている。
(他の人物の衣装に関しても、着込んでいる感じが、まるでない)

蒼井優は、画面に映った瞬間に、グッと惹きつける魔力があり、さすがの存在感を見せる。

西村雅彦、中嶋朋子、林家正蔵は、それぞれ達者な感じ。

子役ふたりの純粋無垢な仲の良さは、本作で最も現実離れしている要素だろう。