るるびっち

家族はつらいよのるるびっちのレビュー・感想・評価

家族はつらいよ(2016年製作の映画)
3.8
温故知新。
『東京物語』で家族の崩壊を小津安二郎は描いたが、その後ホームドラマ自体が映画やTVから消滅してしまった。
なので、今やありふれたホームドラマこそが一番斬新という皮肉。

『東京物語』の先にあるもの。
それは、長寿大国になった日本の終わりなき老後だ。
『東京物語』では悲しくても、死があるから終わりはあった。
平均寿命80歳を超える世界で、老後資金2千万円問題。
『東京物語』には、夕暮れを見詰める余裕があった。
もう我々には、気持ちも生活も余裕は無いのだ。

これほどの長寿社会は、人類が初めて経験するものだ。
故にこのホームドラマは、人類初の問題が関わっている。
古いようで、実は最新のドラマなのだ。
小津以後、日本社会では更に厳しい現実が待っていた。
熟年離婚・無縁社会・孤独死。
「お父さんと、同じ墓に入りたくないのよ」
と、長年の連れ合いに言われるのである(パート3で)。
家族崩壊など、可愛いものだ。

本シリーズでは、シビアな現実の問題を反映させている。
シリーズ三作目の『妻よ薔薇のように』では、キム・ジヨンの2年前に男性社会における専業主婦の苦悩を描いているので、古めかしいようで新しいテーマを取り上げていたのだ。
それは山田洋次監督が、喜劇というよりは社会学者の視点で物を作る監督だからである。
無縁社会を描いた『家族はつらいよ2』では、死体をめぐる喜劇になっていた。
監督は落語好きなので、『粗忽長屋』などの要素も取り入れてるかも知れない。
誰だか全く知らないオジさんの遺体を荼毘に付す際に、悲しみより戸惑いで困惑する家族というのがシュールで面白かった。
古臭い笑いと思われた山田洋次の世界が、現実の厳しさを反映した為にシュール化しているのだ。
現在ホームドラマを描くことは、現実が厳しい分だけブラックユーモア的になる。
それは、野尻克己監督の『鈴木家の嘘』を観ても解る。
だから、実は廃れてしまったホームドラマこそ金脈なのだ!!
山田監督は寅さん以後も『学校』シリーズ、下級武士シリーズなど金脈堀りが上手い。秋元康より外さない。
温故知新、古いものは常に新しい。
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