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セッションのMoviePANDAのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.9
『飴と鞭より鞭と鞭』

“飴と鞭とは、しつけなどにおいて甘やかす面と厳しくする面を併用する事の例え。 また、一方でおだてと脅しを併用し、人を支配する事。”

映画のあらすじはいたってシンプル。ジャズドラマーに憧れる主人公アンドリューが鬼軍曹の如き指導者フレッチャーと出会い、どうなるかというお話です。

この映画、個人的に非常にしっくりきました(何がしっくりきたのかは後ほど…)。そして、昨春まで働いていた会社を思い出しました。ちなみに業種は大手販売業です。その会社で勤めた数年の内、3分の2を管理職として過ごしました。その時、出会った3人の店長のお話をさせていただきます。


A店長の話。任される仕事が大きくなっていく中で、ボクはU2病(話が重くなるといけませんので、某バンド名で記します!)になってしまい責任者を降りました。原因はいろいろあったと思いますが、その当時のA店長の公私のギャップが怖くなってしまったのもひとつの要因でした。

主人公アンドリューも楽団に誘われ、フレッチャーより「演奏を楽しめ」と言われた直後、“その”フレッチャーから叩きのめされます。そして、その恐ろしさから涙を流します。でも、これ仕事に置き換えれば、公私の切り替えもしくはONとOFFを理解出来ていなかったとも言えます。甘く考えていた、プロになる覚悟がないまま、飛び込んだ事による自爆ともいえます。


B店長の話。地元のローカルTV局がボクがいたお店の取材をする事に。内容はアナウンサーが販売士資格の為にお店で実践トレーニングをするというもの。その当時のB店長から、まだ一般社員だったボクに突然の無茶ぶりが!その取材にあたって、アナウンサーの方とその年の新入社員向けに、販売員としての心得や接客技術などの1時間半の講義をしろというのです。それを言われたのが何と前日の夜!その夜は徹夜でビジネスマナーなどのテキストを読み漁り、無事に講義と取材は成功☆程なくしてB店長から責任者に任命されました。

フレッチャーにも思わぬチャンスが訪れます。主奏者が楽曲を暗譜していない事がわかるくだり。暗譜していたフレッチャーが急遽叩く事に。見事叩ききったフレッチャーは主奏者に任命されます。


C店長の話。その方がボクの店に異動してくる際、来る前から様々な噂が飛び交いました。「かなり怖いらしい」とか「とにかく口うるさい」とか。で来てみたら噂の通り!しかも口が悪い!事あるごとに「お前なんか死んでしまえ!」「バカじゃねえのか」。ボクが任されている売場も隅から隅までダメ出しの嵐。口が悪いから、言われてる時はムカつくし、この仕打ち不条理と感じる事もしばしば。ただ…言われる事は間違ってはいない。言われる事をしっかり行えば行う程、どんどん売場は良くなっていく。でも誉めてはくれない。そうなってくると、この人から突っ込みを受けない売場にしてやるという気になってくる。指摘を受けた事をやるのは当然の事ながら、そこにさらにプラスアルファを加えようという気になってくる。結果、売場が良くなるだけでなく、どんどん数字が上がり始めました。品目によっては前年比300%!ここまでくると、自ら考え生み出す力が身に付き、他の誰よりも結果の出せる売場になりました。気付けば、その店長は売場に来ても何も言わなくなってました。


A店長もB店長も怖かったですが、飴と鞭の使い分けをする店長でした。C店長はどれだけガンバっても誉めてはくれませんでした。言ってみれば、飴と鞭ならぬ鞭と鞭でした。

劇中、フレッチャーは危険な言葉があると言います。                     
      「Good job」
言い換えれば「よくやった」。あくまでもボクの場合の話ですが、その言葉を言われない事から半ば「憎いけど認めてほしい」という愛憎の念が生まれた事により今までに湧いた事の無いエネルギーが生み出されたのです。

そこが非常にしっくりきました。
悔しさから生み出される力は絶大なのです。

ラストの演奏シーン。確かに目が離せない9分19秒です。ただし、ドラムソロが長い。くどい。でもこれ、あえての長さですよね。アンドリューはお客さんを最初こそ気にします。しかし、最早観客に認められたいのではなく、とにかくフレッチャーに認めてほしいという想いが壮絶なドラムソロとして溢れ出します。演奏前や演奏中にフレッチャーがアンドリューに掛ける無情の言葉、あれはフレッチャーからの鼓舞激励。もう少しで高みに到達すると考えてるからこそ、あそこにきてさらに追い込みを掛ける。まさにそこからが見せ場。フレッチャーの想定を越えようとするアンドリュー。そして、見つめ合うふたり。


満点で無い理由。それはアンドリューがフレッチャーから新バンドに誘われる場面。例え心に迷いが残っていたとしても即答で『やります』と返事をすれば、尚の事アンドリューのフレッチャーに対する愛憎を表す事が出来たのでは?と思いました。いずれにしても必見の作品ですね(^_^)v
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