これは、肯定してはいけない物語なのかもしれない。始めから終わりまでひとつも休むことなく奏で続けられる壮大な交響曲のようで、得体の知れない緊張感に縛られたまま私は彼の聴かせる切れ目のない音楽にずっと魅せられていたように思う。一歩も動けない。出会った瞬間から心の隙間に入り込み去ってはいかない魔物のようなカリスマ性。それは、狂気とも官能とも紙一重。
音楽的才能が皆無の人間には、全く分からない世界。残念ながら、主人公のドラムの上達ぶりも全く分からない、もしかしたらラストシーンの意味さえも取り違えているのかも知れない。
けれど、バレリーナのトゥシューズの内側が血で真っ赤に染まってしまうくらいに、芸術にその身を捧げるものの過酷さは知っているつもりだ。音楽を志す者もそのpracticeには、きっとアスリートに負けず劣らず、血と汗を必要とするのだ。
そして少年から青年へ、その通過儀礼の厚みに圧倒される。“正しく”大人になることは、こんなにも苦しく、痛みを伴なうものなのか。
万人に開かれた方法論ではない。けれど、その出会いがうまくマッチした時にだけ生まれ育つ才能がある。
その邂逅の火花を確かに目撃した、これは、そういう映画だと思う。