エイデン

百日紅 Miss HOKUSAIのエイデンのレビュー・感想・評価

百日紅 Miss HOKUSAI(2014年製作の映画)
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文化十一年(1814年)、江戸
この町に葛飾北斎として知られるトンチキな浮世絵師 鉄蔵を父に持つお栄が住んでいた
お栄は鉄蔵が住む仕事用の長屋に住み込み、浮世絵師として腕を磨きながら母のことや妹のお猶の元を行き来していた
仕事が減った鉄蔵を心配していた母に対し、お栄は自分達 父娘が筆を握っていれば何とかなると豪語するが、その心中は複雑だった
鉄蔵は酒も煙草もやらないが四六時中 絵のことばかりで、金や生活に無頓着、部屋が散らかって収集がつかなければ引っ越すという奔放な男で、ことやお猶の元にも顔を見せることなく、ただただ絵に没頭していたのだ
ある日 お栄は鉄蔵の完成間際の龍の絵にキセルの火種を落として台無しにしてしまう
約束の絵を受け取りに来た武士に、鉄蔵は龍が逃げ出したとごまかすが、翌日の納品日までにまた1から絵を描くつもりは無い様子だった
そこに、居候の見習いである善次郎が歌川一門の門徒で浮世絵師として活躍する国直を連れて帰ってくる
国直は尊敬する葛飾北斎との出会いに感激していたが、お栄とも橋ですれ違ったことがあり、その顔を覚えていた
しかしお栄はそんなことを気にするでもなく、鉄蔵に押し付けられた形となる龍の絵を明日までに仕上げようと下絵作りに集中していた
それを見た国直は、龍の絵は描こうとするのではなく、降りてくるのを待って筆で捕まえるのだという唐の教えを語る
やがて騒がしくなり、お栄は鉄蔵ら3人はお栄に外へと追い出されてしまう
夜も深くなった頃、筆を手に紙に向かっていたお栄の元に凄まじい風が舞い降り、彼女は無我夢中で筆を振るった
そして夜が明け、1人置き去りにされていた善次郎が長屋へ戻ると、そこには見事な龍の絵と、その隣で横になるお栄と鉄蔵の姿があった



江戸風俗の研究家でもある杉浦日向子が連載していた歴史漫画『百日紅』を原作としたアニメーション映画

世界的に有名な浮世絵師 葛飾北斎の娘お栄を中心に江戸を生きる人々を情緒豊かに描いた作品

葛飾北斎の娘 お栄は、葛飾応為の名で活躍した浮世絵師だった
絵以外に興味がなく生活はめちゃくちゃで、師である勝川派からも破門を受けた破天荒な父に似た性格だったとされ、竹を割ったような快活さを感じさせるエピソードも残っている
本作はそんなお栄の、葛飾北斎の娘として、絵師として、家族を守る1人として、女性として、様々な目線から描かれているのが特徴的
絵師としてはまだ未熟、妹のお猶を導くこともできず、奔放な父にも手を焼く、多くの苦難に見舞われながらも逞しく生きる姿がステキなキャラクターとなっている

一方で原作が短編だからか、ストーリーはブツ切れな印象を抱くのも事実
大体この手の作品では共通したテーマを盛り込むのが定石だとは思うんだけど、それも薄め
四季という描写が明確ではあるものの、お栄の成長が明確に描かれるわけでもなく、あくまで江戸の町を生きる姿にスポットを当てているようにも感じられ、特別ドラマチックなドラマも全体からすると限られている
江戸情緒を通して「いき」や「すい」を如何に感じるかがストーリーを楽しむポイントのようにも感じた

指摘も多く受けたようだけど、時代的にそぐわない描写も確かに見られ、しかもそれが原作では史実に忠実だったという、映像化に当たっての改悪をしているのはあるんだけど、アニメーションとしての質は素晴らしい
特にお栄が目の見えないお猶に世界のことを教えていくという描写は、アーティストとしてのお栄が見る幻想的な世界を描き出していて、映像表現的にも見事だと思う

思いのほか繊細なタッチの作品で、どう捉えるかによっては評価が分かれることを感じさせるけど、個人的には好き
江戸の世界を美しく描いていることは確かで、海外では高い評価も得ている作品なので、ぜひ心を江戸っ子にして観てほしい
エイデン

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