まず、前提知識。イブ・ランローランはファッションのアンディー・ウォーホールです。アートもファッションも金持ちのものでした。金ピカ時代の有閑階級の娯楽でした。だから、基本的には一品もの。ファッションならオートクチュールが中心でした。そして、ファッションとアートを大量生産して裾野を広めた(大衆化したとまでは言わない)のがイブ・ランローランとアンディー・ウォーホールです。イブ・サンローランはプレタポルテ(劇中でも言及されるリヴ・ゴーシュ)で、アンディー・ウォーホールはポップアートで。
そして、ファッションもアートも大量消費される対象となりました。大量生産され、大量消費される。もっと多くの人たちに触れられるので、ロックスターのように扱われるようになる。だから、この二人はとても近しい関係にありました。これが60年代から70年代のセックス、ドラッグ、ロックンロールの時代と重なるわけです。それまで、アンディー・ウォーホールのようなアーティストはいなかったし、同じ意味でイヴ・サンローランのようなファッションデザイナーはいませんでした。
そういう前提での映画本編のレビューです。
そもそも、なぜこの映画を観る気になったか?それはヴィスコンティ監督作品『家族の肖像』でヘルムート・バーガー演じるコンラッドが着ていたのがイヴ・サンローラン 。そして、そのヘルムート・バーガーが本作で(年老いた)イブ・サンローラン本人を演じているからです。すごく、興味深いじゃないですか。ヘルムート・バーガーはヴィスコンティの恋人で、バイセクシャル。そして、イブ・サンローランもバイセクシャル。すごく似合っているだろうなと。実際に、すごく合っていました。若き日のサンローランを演じたギャスパー・ウリエルも怪しい色気を発して好演していました。
結論ですが、本編は(ヴィスコンティ映画と同様に)ファッションを観る映画です。ぶっちゃけ、内容はどうでもいい。初期のモンドリアンやスモーキングはあまり出てきませんが、全盛期と言われる76年のバレエ・リュス・コレクションでクライマックスを迎えます。コレクションもいいのですが、本編内での普段着がとてもいいです。2時間30分と長い上映時間なので、気になるファッションのシーンだけ飛ばし飛ばし観てもいいのかなと思います。