けーはち

ブリッジ・オブ・スパイのけーはちのレビュー・感想・評価

ブリッジ・オブ・スパイ(2015年製作の映画)
3.5
米ソ東西冷戦期。トム・ハンクス演ずる弁護士ジム・ドノヴァンはソ連のスパイの弁護を任され、その後、彼とアメリカ人偵察機パイロットの交換交渉人として東奔西走する。

★スピルバーグ監督には大きく分けて2つの作風がある。1つは『ジュラシック・パーク』などのドンパチ&モンスター系娯楽路線、もう1つは史実をベースにしたマジメ路線。本作は、後者──別名「アカデミー賞狙い路線」。『リンカーン』では狙っていたアカデミー監督賞を『ライフ・オブ・パイ』に取られたので腹癒せに『ライフ・オブ・パイ』の主人公(の成人後)の演者を『ジュラシック・ワールド』でマスラニCEOとしてブッ殺したというウワサがまことしやかに囁かれてるんだが、本当だとしても、そんなスピルバーグが好き。

★閑話休題。スピルバーグ監督でトム・ハンクスが主演、コーエン兄弟が脚本を手がけた史実の影を描く大作──ハズレはないが、想像の範疇を超えた驚きや感動はない。もちろん昨年現れた数々のスパイ映画超大作に比べドッキリアクションも爆発も美女も出てこない。地味で、長〜い眠〜い映画。

★だが、地味ゆえに確かに引き立つリアリティの妙味はある。だいたい、誰が見ても超カッコいいイケメンがスパイで、派手なアクションを繰り広げたりするわけがない。スパイが目立ってどうする!(それを言っちゃあ……)

★冒頭、車、看板──時代を感じさせるアイコンを見せながらアメリカの1950年代の街並みを描く。しなびた老年の男は自室で鏡を見ながら自画像を描いている(まるでスパイとして分裂した自分の姿を映し出すよう)。そこに電話がかかる。スパイと疑わしき男を尾行する、捜査官の姿。それをサラッとまいて川べりに腰を下ろし無表情に淡々と絵を描く男。何気なくベンチの下からコインを取り出し、彼は家に帰ってからマッチで挟んで固定したカミソリを差し込みコインを開く。中に暗号表が……といった具合で、日用品やそう見えるツールの組み合わせで、暗号を届ける様子が描かれる。実に主役が出てくるまでの冒頭が一番スパイものらしかった。

★そこからは主役「不屈の男」ドノヴァンの体現するアメリカの王道正義が終始描かれる。弁護士(そう言えば、リンカーンも元弁護士だ)は、スピルバーグの王道ヒーロー。バラバラの宗教信条民族出自で構成された共和国アメリカで守るべき正義はただ1つ。「法」に拠って立つ、それゆえに弁護士はヒーローたりえるのだ。ドノヴァンは交渉に長け優秀な弁護士だが、正義を貫く頑固な(トム・ハンクスらしい)愛国者がゆえアメリカの精神を守り、後ろから撃たれようとも敵の弁護もする。孤立無縁になりながら、彼は「不屈の男」として立ち続け、大業を成し遂げ、倒れこむようにして眠る──アメリカの正義を体現したヒーローは、ただの男の顔を見せるのであった。良作だが、果たして、スピルバーグのアカデミー賞欲しい病は満たされるのだろうか、それだけが心配だ。