パンケーキレンズ

ブリッジ・オブ・スパイのパンケーキレンズのレビュー・感想・評価

ブリッジ・オブ・スパイ(2015年製作の映画)
5.0
「人道的な勇気」と「誠実な言葉」の積み重ね

コーエン兄弟(脚本)とスピルバーグの、一瞬「へっ!?」と思うような組み合わせ、これが見事に共存して、とんでもない深みに落ち、たまらなく魂が震えた

同時に
コーエン的「語り」の、器の広さに驚愕もした

直接的な軍事衝突がなくても、経済的な圧迫、情報操作、軍備拡張のにらみ合い、そしてスパイの暗躍・・・お互いがお互いを静かに牽制し合っていた「冷戦」という時代だからこそ、一人の一般市民(弁護士)から発せられた「言葉の重み」がより一層重要となるストーリーだけに、コーエン的「語り」が人間味を纏って、歴史の大きな一幕がドラマティックに再現されている

言葉が、人の心を動かし

人の心が、歴史を動かす

密室での会話によって、ロシア人スパイの仮面が少しずつ剥がされていくのですね・・・

そして表れたのは「普通の人間」

スパイと呼ばれた男の「人情」だったのだ

東と西の対立という、分かり易い構図
愛国心を纏った人間ドラマを序盤に充分展開させながら、鉄のカーテンの向こう側、ベルリンに足を踏み入れることで突入したのは

三つ巴となる緊迫の心理戦

少しコミカルな描写を巧みに挟みながら、ベルリンに舞台を移すことで、主人公が「スパイ的」な活動を行うという、序盤と対をなす立場の逆転的な展開描写がまた粋ですね♪
冒頭のロシア人スパイのように、鼻にハンカチを当て、オヤジ狩りに遭っても目立たないように抵抗もできず、ただひたすら「仮面」をかぶり続ける新米スパイの形相に、コーエン的エッセンスを感じたりもする

スパイの聖地、ベルリン

東西冷戦のシンボル、ベルリンの壁

有刺鉄線に小雪が舞い降る、東ベルリンの寒々とした風景の中で、個人の正義と国の思惑が交錯していく

遠い国の知らない誰かを、戦場でただひたすら殺しまくるのが戦争であり、また、国の安全と便益のためなら、たとえ自国民であっても、捨て駒の如く毒針を持たせるのも、また戦争なのだろう

密室で、そして、自分の言葉で語り合うことで

己の敵は「普通の人間」であることを知った二人

その絆は

国境を越えた、唯一の戦友、でもある・・・

壁を越えたら銃殺される国があれば
子供がフェンスを越えて無邪気に遊ぶ国もある
そのたった数秒の描写の上手さに唸りながら
言葉にできない、どうしようもない気持ちが込み上げた

どうしてこんなに不条理なのか

人の本質はどれも
祖国を捨てず
国籍に誇りを持ち
家族を愛し
隣人を愛する
「普通の人」に他ならないのに・・・

史実をベースとしながら、情報戦(心理戦)をスリリングに展開させる渋いスパイ映画でもあり、人の本質に迫ったドラマでもあり、シンプルな構図の中に、複雑な思惑が巧みに描かれている

Standing Man

二人の最後の会話
周りの人間には分からない、二人だけの暗号のようなフレーズが、温かく希望に満ちながら、同時に暗い影を伴って二人を照らしていた

それは最も人の本質に迫った瞬間でもあり

祖国の宿命を背負った、残酷な瞬間でもあった・・・