グラッデン

ブリッジ・オブ・スパイのグラッデンのレビュー・感想・評価

ブリッジ・オブ・スパイ(2015年製作の映画)
4.2
スティーブン・スピルバーグ監督の作品について、本サイトを閲覧してる大半の方と同様、子供の頃から『E.T.』や『インディ・ジョーンズ』等を見ており、間違いなく「映画って面白い」ということを教えてくれた方の一人です。

ただし、大学の頃に『シンドラーのリスト』を初めて鑑賞したときには、同監督の作家性を強く影響されました。今考えますと、上述のような「面白い」という娯楽性の高い作品に限らず、こうした「考える」映画に関心を抱くようになった契機になった作品だと思います。

今回鑑賞した『ブリッジ・オブ・スパイ』についても、作品序盤から、スピルバーグ監督の強い思いを感じる作品だったと思います。

本作を通じて、法治国家の根底である法秩序、国民を国民たらしめている権利の存在を蔑ろにしてはいけないということを伝えています。

東西冷戦の時代が舞台ということで、明確な戦争状態では無いものの、想定される敵勢力の存在に敏感に反応し続ける当時の空気感は、21世紀以降の国際社会が直面するテロリズムとの戦いにも通ずる部分があると思います。

そんな時代だからこそ、本作が提示する問題意識は、米国に限らず、現代社会を生きる多くの人々が考えるべき問題だと思いました。

特に、20世紀の冷戦が東西陣営という国家の枠組みでの対立であったのに対し、21世紀のおける見えざる戦いは、人種や宗教といった、単純に人や国の単位では線引きが非常に難しい枠組みで展開されています。

前半部の米国におけるアベルの立場、後半部の東ベルリン滞在時のドノヴァン弁護士の立場が印象的でしたが、いかなる場所であっても、守らなければならない法と権利があり、当たり前ながら感情論で語ってはいけないことを教えてくれます。

以上のように、テーマ性としては重めの内容ではありますが、作品全体を見ると「面白さ」も提示できているおり、非常に良いバランスの取れた作品だと思います。

捕虜の交換を巡るネゴシエーション、終盤における駆け引きにはスリルを感じさせますし、そうした場面で前線に立たされるトム・ハンクスが演じるドノヴァン弁護士の人間味溢れるキャラクターや冗談っぽい言い回し、アベルとの立場を超えた信頼関係が良い意味でブレイクスルーになっていたと思います。

映画の尺としては、少し長いレベルではありますが、そうしたテンポの良さから、長さを意識することなく一気に見終えた印象です。事前情報から身構えて劇場の席に着きましたが、良い意味で肩の力が抜けていきました。デート向けではありませんが、週末におススメしたい映画の1本です。