映画漬廃人伊波興一

ブリッジ・オブ・スパイの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

ブリッジ・オブ・スパイ(2015年製作の映画)
3.6
スピルバーグをナメるなよ
スティーブン・スピルバーグ『ブリッジ・オブ・スパイ』

あるバラエティー番組で是枝裕和監督が出演された時、所謂(イイ話)が紹介されました。
司会者から
『監督、こんな話ならすぐに映画になるんじゃないですか?』と問われ、
是枝裕和監督は
『いえ、こんなイイ話は映画なんかにしないで本当のままにしておいた方が良いと思います』と、答えられました。
全く全くその通り。

(事実に基づく)という事ほど映画にとって危険なものはない。事実に近づけば近づくほど映画からは遠ざかっていくに違いないのですから。
そこを履き違えた誤った轍がどれだけ映画の歴史に刻まれてきたことか。

『ブリッジ・オブ・スパイ』を心おきなく楽しむ秘訣はこの作品がInspired the truth なんて綺麗さっぱり忘れる事に尽きます。
ブロディ署長が映画主人公として、ひたすらサメ退治に取り組んだようにトム・ハンクスもまた映画主人公として、自国の諜報部員と一人の市井のアメリカ青年救出に取り組んだだけです。
無垢な宇宙人を天空に放ったエリオット少年を誕生させて以来、スピルバーグは数多くの解放のカタルシスを私たちに味わせてくれました。
解放の光景を目の当たりにした私たちは不必要な饒舌に流される事なく素直にその余韻に浸れば良い。
『ブリッジ・オブ・スパイ』も単純にそんな産物に違いないし、またそうでなければなりませぬ。
ある意味危険な評価にさらされかねない『ブリッジ〜』を無闇に掘り下げる事だけを好む事実絡めの見解にモノ申す。
(映画屋スピルバーグをナメるなよ)