カツマ

草原の実験のカツマのレビュー・感想・評価

草原の実験(2014年製作の映画)
4.2
絵画のような画が連続し、大自然の表情をも映し出した美しい色彩に彩られたサイレントムービー。ただ美しいままであってほしかった。牧歌的な風景も、美少女を取り巻く男同士の決闘も日常的な景色であってほしかった。ただただ美しさの儚さと壊れやすさが迸る慟哭のエンドロールに呆然と真っ暗な虚空を見つめるしかない。セリフを一切排しており、ストーリーに辻褄が合わないことが出てくるかもしれないが、その秘められた沈黙がこの映画の魅力だった。そう、そこには強烈な対比がある。それは日常の美しさとの対比であり、それこそがこの物語に込められたメッセージだった。

牧場のような草原に家がポツンと建つ風景。そこでは父と娘がひっそりと暮らしていた。美しい娘は2人の男性から求愛され、どちらの想いに応えようか逡巡している。そんな静かだが当たり前な日常が続いて行くかに見えた。だが、日常の裏側は次第に狂い始めていたのだ。父親の環境に異変が起き始め、豪雨と共に、その暗澹とした不安は次第に形となって娘の生活に影を落としていく。

この映画はかのロシアの巨匠タルコフスキー作品の持つメッセージと酷似している。だが、違っているところは何と言っても映像美によって日常の美しさを極限にまで描き切ったところにある。太陽を、月を、象徴的な光として地平線の上に彷徨わせ、あの全ての謎に終止符を打つラストシーンまで静かだが淡々とその芽は育っていくのだ。90分間の沈黙と2分間の轟音を対比させ、生きていることへの賛歌と、その静寂を失った時の代償がただ心の奥底に沈んでいき、なかなか浮かび上がることが出来なかった。
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