亘

草原の実験の亘のレビュー・感想・評価

草原の実験(2014年製作の映画)
4.1
【奪われた美しさ】
中央アジアの草原。少女が父親とともに小さな家に暮らしていた。美しくも時には厳しい自然の中で暮らす中で車の運転を覚えたり少女は恋愛をしたりして成長をするが、彼女の暮らしは一瞬にして奪われる。

自然の映像が美しく8Kテレビで見たい作品。そして96分の作品のうち最後の2分間のために残り94分があるような映画。少女は自然にしたがい純朴に生きてきた。そして車の運転を覚えたり地元の少年とロシア人の少年との間で恋心が揺れ動いたりする。彼女もきっと結婚して日々水を汲んだりして普通に生活していくはずだったのに最後の最後"実験"のためにその短い生涯は強制的に終わらされてしまう。まさに不条理である。

本作は、全編セリフがないからこそ少女の心情を考えようとして少女に感情移入するし、のどかな自然の音に身を浸すことができる。ラストシーンまでの94分間に自然も少女も美しい世界観に入り切るからこそラストの不条理のインパクトが強くなっている。少女たちの死が一瞬というのは現実の死と同じであるし、そういう点でこの作品は不条理のリアリティを追求した作品だろう。

余談
本作のモデルになったのは、カザフスタンにあるセミパラチンスク核実験場で旧ソ連が行った核実験です。四国とほぼ同じ面積の広大な地域を実験場に指定し、その中には住民も残っていたそうです。
亘