津次郎

MI5 消された機密ファイルの津次郎のレビュー・感想・評価

MI5 消された機密ファイル(2011年製作の映画)
3.8
ビルナイをはじめて知った時すでにシニアだった。ベテランではあっても映画は後発だったのかもしれない。あるいは世代によってそう見えるのかもしれない。まるで笠智衆のように、最初から老人だったのである。

しかし、知ってからは多くの映画で見た。とにかく何でもできる。アンダーワールドで地底の支配者をやっていたし、カリビアンのタコ船長もやっていた。
Love Actuallyのビリーマックも印象に残っている。クリスマスチャートに競り勝ち、公約通り、素っ裸で歌う、無粋でロートルなロックンローラーが楽しかった。
何でもできるけれど、どちらかといえばコメディが似合う。アバウトタイムの父親も絶品だった。「飄々」の形容がもっともぴったりする俳優だと思う。

たいていの俳優はわたしたちに認知されるまでに、厖大な下積みを持っている。王様と私で、渡辺謙を目にした外国人は、初めて見たとき既に禿げていた、と認知するだろう。それが初見なら、観る人にとっては、新人もベテランもおなじスタート地点に立ってしまう。役者の歴史は見えないものだ。

ただビルナイほどの俳優であれば、すぐにその芸達者ぶりは知れる。──わたしはこの俳優をはじめて見たのだが、およそ本国では名のあるベテランに違いない──とは、すぐに解るのである。

本編はイギリスのテレビ映画。レイチェルワイズが相手役、スパイ映画と言えば言えるが派手さはない。小品だがジョンルカレみたいなクールな手触りだった。
ここでのビルナイはコメディ色を排し颯爽としてシリアス──話す・歩く・煙草に火を点ける等の基礎動作がいちいち堂に入り、あと20歳若ければもっと有名なスパイ映画でダニエルクレイグの後釜をはれるのではないかと思わせるほどダンディだった。

デヴィッドリーンのインドへの道のジュディデイヴィスを久々に見た。30年ぶりだろうか。面影に、どっかで見たとは感じたが、痩身で険があり思い出せず終い。エンドクレジットでおおジュディデイヴィスとわかった。アレン作品には常連らしいが私はウッディアレンをほとんど見ない。インドへの道の夢のようなジュディデイヴィスを思い出した。

ビルナイはとても印象的な声を持っている。トロッグズのLove(Christmas) Is All AroundもWetWetWetバージョンよりもビリーマックバージョンが耳から離れなくなるし、あのデイヴィジョーンズ船長のゴテゴテの扮装でも、一発でビルナイが演っていると解る。
印象的な俳優には役柄を貫く個性みたいなものが通っている。見ながらそんなことを思った。
津次郎

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