しろくま君

エレファント・ソングのしろくま君のネタバレレビュー・内容・結末

エレファント・ソング(2014年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

私の望む全てがここにあった。母性に包まれ、誰かに愛され、死にゆく。自分で選んだ死を貫いた。

マイケルは大きな少年だった。彼は知性を蓄えてたが、育ち方を教わらなかった。誰かをコケにしたり、誰かを馬鹿にしたり騙したりすることで誰かの興味を引こうとするマイケルが、師長にだけは嘘をつかず素直だったことに泣いた。師長といる時だけは姑息な精神疾患の青年ではなく、無邪気で象を心から愛する少年だった。

マイケルは何のために死んだのだろう。病院生活に嫌気がさして?望む愛が手に入れられなくて?院長みたいに何も知らない人と話す機会はもう来ないから?それとも全てを手に入れたからだろうか。マイケルはもちろん外に出たかったとは思うけど、人生の中の唯一の母性がいる病院のことは少なからず嫌いではなかった。他人に初めて愛されたことは心から嬉しかったはずだ。そして、院長は人生で初めての友達に思えたのかもしれない。マイケルが院長に初めて嘘を言わないで話している時、マイケルは心から楽しそうに話していた。全てに嫌気がさしたわけではなく、全てを手に入れた幸せから死を選んだんだろうか。もしくは、自分に触れてくれないのは、望むように愛してくれないのは、自分が醜いからだという思いを拭えなかったからだろうか。

マイケルが母が死ぬ時数え歌を78まで歌ったのは、けして精神に異常をきたしていたからだとは思えない。母からもらった愛の歌を、母が苦しい時に手を繋いで歌ってあげることは、子から親への愛の形だと思う。

象の殺害シーンは胸糞だった。けれど、マイケルの人格を作るにはあのシーンは絶対に必要だった。彼のトラウマになるには充分な出来事。大きな銃声、殺戮する父親、
自分の目を見る大きな瞳、悲しげな雄叫び、流れる涙。それでもなお象を美しいと思い続ける心に惹かれた。病的なほどの動物愛好家は美しい。

マイケルは考える力があり、人の心に寄り添える強さがあり、人を騙す才能があり、そして子供を愛せる優しさがあった。彼が弱くて臆病で人を馬鹿にする描写がメインだっただけに、少しのシーンでマイケルの本当の心を的確に見せていたグザヴィエドランの演技に圧巻。

同じシーン、同じ話題が続く映画で最初から最後まで見応えがあったのは、話の内容云々ではなく映画として素晴らしいと思う。まだまだわからないこともあり何度でも観たくなる。