みーちゃん

東海道四谷怪談のみーちゃんのレビュー・感想・評価

東海道四谷怪談(1959年製作の映画)
4.2
映像の美しさ、格式高さに圧倒された。そしてこの世界観に相応しい天知 茂に魅了された。

とにかく彼が映っているだけで画面のパワーが増す。言い換えると、彼がいないシーンは物足りなく感じる。無意識のうちに彼の登場を求めている自分に気づく。

序盤、道端で民谷伊右衛門が四谷左門を殺害するシーン、って言うか「しばらく!しばらくお待ちください!」と右手を伸ばして制しながら跪く、初登場シーンで目が釘付けになる。あの独特の妖美さを湛える顔立ちは勿論、腕も背筋も足捌きも、全身に渡って1ミリも隙がなく息を呑む。

直助との企みで、佐藤与茂七を滝壺に落とした後、茶店で待つ姉妹の元に戻ってくる時の、まさしく武士の走り方にも感動した(それをチラッと遠景で魅せるさり気なさが憎い)。

全編そんな感じだから、褒めポイントをあげ出したら切りが無いのだけど、一番怖かったのは、直助に妻殺しを持ちかけられた夜、蚊帳の中で寝ているお岩さんが切り出した「もし私が死んだら…」という会話。その時は「悪い冗談」で終わったが、あのシーンは結構長くて、センシティブで、心臓がバクバクした。その前のシークエンスでは明かされなかった、伊右衛門の答えを暗に示す演出なのが渋い。

彼の殺意は、お岩が嫌になったとか、お金が欲しいとか、損得勘定だけとは思えない。自分の人生を変えたい、この封建社会から解放されて自分らしく生きたい、という根源的な葛藤から生まれたであろうところが、どうしようもなく深い。