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北の国から'89帰郷のmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

北の国から'89帰郷(1989年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

蛍が旭川に引っ越す回。純が先に東京に出てしまっているため、蛍が家を出れば五郎は1人になってしまう。振り返るなら「’83冬」の故郷を離れるというテーマが蛍の物語として変奏されている。

蛍の恋人となる勇次(緒方直人)は、一族の期待から早く東京に出ていくことが望まれている人物として登場。故郷・滝里はダムの底に沈むことも決まっていて、彼はいわば故郷を離れることを強いられている。「東京なんか行きたくねぇんだ。おれは富良野にいてえんだ」と唇を噛む彼と、自ら何者になるために自律的に故郷を、そして父の元を離れようとする蛍の苦悩とが対比される。

一方、純は?という形で東京パートに移ると、ダサい自分を必死に何とかしようと髪を茶髪にしたり、どうしようもなく痛い事態になっている(やはり上京の理由が本音を言えばレイちゃんだったからだろう…)。茶髪にしただけで不良扱いをされるのはそういう時代だったのか...と可哀想な感じもあるが、盗難バイクを掴まされ、厄介になった警察では茶髪を理由に散々なじられ、(古尾谷雅人に一生の宝物にしろと言われた)泥の付いた例の2万円を盗まれた挙句に傷害事件まで起こし、村井國夫に「理由は聞かないんですか?」と逆ギレしてしまうのだから、気持ちは分からんではないものの経緯を眺めるに弁護はしづらい。早く富良野に戻るべき。

富良野に戻ると、富良野は当時のままで何も変わらず優しい。喧嘩の理由も聞いてくれる父に「丸太小屋作りを手伝いたい」と話すと「それはダメだ」と突き返される。

本作は蛍が旭川に出て行ったその日に中畑と2人で居酒屋でクダを巻くシーンからの回想でその顛末が語られ、最後もまたその居酒屋シーンで閉じられる構成になっているが、寂しくても純の帰郷を今はまだ望まなかった五郎の親としてのあり方が、そのグデグデでだらしの無い姿の向こうにラストは透けて見えるようになっている。蛍が出て行ったことが本当に淋しい、その気持ちが誰よりも分かるからこそ中畑は目に涙を浮かべていて、地井武男の役者としての素晴らしさをも拝める名場面だ。

純がフィーチャーされた’87初恋では尾崎、今作は長渕の乾杯。勇次が蛍とのイニシャルHYを木に彫りつけたシーンを見て「もしかしてHYってバンドはここからバンド名を付けたのかな?」と妻に聞いたら「あれは沖縄のバンドね」と即座に否定された。

レイちゃんに’87で約束した札幌の天窓のあるカフェに連れていってもらったり、洞口依子演じるエリちゃんは2万円を一緒に探してくれたり、純が知り合う女の子はみんないい子ばかり。その誰もを純は傷つけていくのだから、やはり許すことはできない(このあたりは’92巣立ち, ‘95秘密でも引き続き勝手に怒っていきます)
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