MasaichiYaguchi

ヴィンセントが教えてくれたことのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.0
ブルックリンの住宅街を舞台に、偏屈なオヤジと12歳の少年との交流を描く本作は、作品の設定や市民社会が抱える問題を背景にしている等の類似から、ビル・マーレイ版「グラン・トリノ」と呼べるかもしれない。
クリント・イーストウッドの名作は、引っ越して来た隣人と触れ合ううちに、捨て去ったいた誇りを取り戻し、ある意味「英雄」になっていく主人公を描いていたが、このビル・マーレイ版ではそのような結末にはならない。
気儘勝手な年金生活を送るヴィンセントは、「飲む打つ買う」の三拍子揃った駄目オヤジで、その上ぐうたらで毒舌家なため人が寄り付かず、話し相手は飼い猫のフィリックスと「夜の女」のダカぐらい。
そんな彼の隣にシングルマザーのマギーとその息子オリバーが越してきて、ある切っ掛けから彼はオリバーのシッターを引き受ける羽目になる。
いい歳をして好々爺にもなれず、やんちゃなちょい悪オヤジのヴィンセント、家庭の事情で大人にならざるを得ないオリバー。
年も性格も、生まれ育ちも違うこの二人は、その違いゆえに惹かれ合う。
ヴィンセントを演じるビル・マーレイは地ではないかと思われるほど役に嵌っている。
この演技派のベテラン俳優に物怖じせずにオリバーを演じるジェイデン・リーベラーが素晴らしい!
そしてロシア人ストリッパーのダカ役のナオミ・ワッツが今まで見たことがないようなビッチな演技をしていて最高!
原題“ST.VINCENT”の“ST.”の意味を映画は何度か描くのだが、この作品での真の意味は終盤で解き明かされる。
本作は、ヴィンセントと少年の心の触れ合い、友情を通して、人にとって“ST.”とは如何なるものなのかを描いていると思う。
少年オリバーだけでなく、観ている我々もヴィンセントから良い意味でも悪い意味でも色々教えてもらえる作品です。