垂直落下式サミング

ズートピアの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ズートピア(2016年製作の映画)
4.8
ディズニーCGアニメ最新作。
子供が観るべきアニメ作品だと思う。「ありのままで生きろ?いや違う!誰だってなりたいものになれるんだ!!」というテーマで夢を持つことの意義を前向きに肯定した冒険活劇。作り手が感動させようとしているシーンで全部泣けるし、笑わそうとしているシーンは全部笑える。流石に怖がらそうとしている場面は配慮してあるけど、猛獣が暴れるシーンはちゃんと怖い。ディズニー伝統のウェルメイドな子供向けエンターテイメントの横綱相撲を感じるアニメ映画だった。
物語の舞台は、進化した動物たちが仲良く暮らす動物の楽園ズートピア。動物人間の町だ。都会で警察官になることを夢みるウサギのジュディは「チビで間抜けなウサギが警察官になんてなれっこない」とバカにされながらも、同期のガタイがいい動物だらけの警察学校をトップの成績で卒業する。この訓練シーンはYouTubeの予告でも観れるのだが、ひとつひとつがギャグとして笑えるし、ジュディが人一倍努力する姿が感動的だ。教官も『フルメタルジャケット』みたいで面白い。警察学校の訓練で、ジュディは一回目の挑戦は尽く惨めな思いをするが、めげずに努力や経験を積み重ねた末に軽々と出来るようになる。この場面の長期間の話を短く省略する編集が上手くて、ここで主人公にぐっと感情移入させられる。
そしてついに初出勤。巨躯のマッチョ集団のなかに小さな女の子が張り切って入っていく危なっかしい感じが、残酷なことが起こりようがない子供向けアニメ映画のなんのことはないシーンなのにハラハラさせられる。新米警官のジュディはいち早く認められようと、キツネの詐欺師ニックと共に連続失踪事件の調査することとなり、努力家でポジティブなジュディと不真面目で捻くれたニックのでこぼこコンビがズートピアの暗部に蔓延る巨大な陰謀へと迫っていく…。
最初は皮肉屋で嫌な奴として描かれるニックにも、物語中盤でジュディ同様の辛い経験をしたことがニック自身の口から語られ、対照的な二人が互いの共通点を知り、肉食動物と草食動物の間にある溝を超えて認め合いバディになっていく過程が熱い。
「ウサギは臆病」とか「キツネは嘘つき」を人間に置き換えると、「白人は傲慢だ」「黒人は暴力的だ」「ユダヤ人は小賢しい」「東洋人は頼りない」と、ステレオタイプな差別意識に変換できる。このアニメは、今はもうそんなことを言って傷付け合っている時代じゃない、違うもの同士が違いを認め合わなきゃ始まんねぇよと前向きな思想を提示している。同じ場所に生きるもの同士、他人を種族による偏見で決め付けることなく、みんなが仲良くできたらこんなに素敵なことはない。相変わらず綺麗事だとは思うが、子供向けアニメは身も蓋なく正しく美しい理想を堂々と語るべきだ。
黒幕のアイツがなぜ悪いのか?物語内部にちゃんとロジカルな伏線がある。「群れの中にいなくていい。夢を持てば宇宙飛行士にだってなれる」のに、いつまでも同種の仲間同士で連るんで、他人に自分の意見を言わず、評価されないことを他人のせいにしてばかりいてはダメだ。取りこぼしてしまいそうな伏線だが、明らかに脚本の意図するところだと思う。
ジュディが世話しなくトントントントンと足を踏み鳴らすシーンは、手塚治虫先生にも影響を与えた名作『バンビ』に出てくるウサギのとんすけのオマージュでしょうねぇ可愛い(*≧-≦)
小ネタ下ネタを織り混ぜた世俗的な作品でありながら、最初から最後までまっすぐな線がひかれた素敵な子供向けアニメに仕上がっていました。とっても上品で健全なので、子供にこそみせるべきだと思いますよ。