ゆず

モアナと伝説の海のゆずのレビュー・感想・評価

モアナと伝説の海(2016年製作の映画)
3.8
鶏のヘイヘイが頭悪すぎで面白いを通り越して哀れにも感じるが、だからこそどこか愛おしくもある。目の離せない子供と同じである。一方、誰もがマスコットと思うだろう子豚のプアは中盤以降出番がほぼない。せっかく出しといて使わないのはディズニーのお仕事にしては違和感。まあヘイヘイが代わりに身を削って活躍?してるからいいのだが。でも今後もいろんな所で豚がマスコットヅラすると思うとなんだかなあ…。

タラ婆ちゃんすごい良かった。祖父母と距離のあった私が見てもちょっとウルッときてしまうから、おばあちゃん子の人が見たら涙腺崩壊かもしれない。タトゥーがマジかっけえ。あと「マッドマックス 怒りのデス・ロード」へのオマージュとしか思えない例のシーンは流石にアガる。モアナ世界のキャラクターを使ってイモータン・ジョーの軍団を再現したことで、彼らの狂気がより鮮明に描き出されている。そうそうマッドマックスってこういう作品だったよね、って逆にマッドマックスへの愛着が強まる。

ポリネシア風の島々を舞台にしており、主役のモアナは日に焼けた肌に、しなやかな黒髪、丸い顔と低い鼻がチャーミングな女の子になっている。彼女と旅する半神半人のマウイも人種の特徴が顕著で、横に長いガッチリとした体格をしているが肥満体ではなく筋肉の塊。こういうキャラクター造形も新しいが、それよりも興味深いのは主人公たちの相棒キャラが本作では生き物ではないこと。例えばラプンツェルにはカメレオンのパスカル、アナ雪のクリストフにはトナカイのスヴェンなど、言葉は通じずとも登場人物と心を通い合わせ話相手や時には導き手にもなってくれる動物がしばしば登場する。しかし、本作でモアナの導き手になるのは「海」そのもの。そしてマウイの心を代弁するのも生き物ではない。動物のマスコットを安直に配置せずとも、物語がちゃんと進んでいくところもこれまでにない新しい部分だったと思う。

宗教的な面でも面白い試みをやっている。未開部族の土着の信仰にいかにもありそうな、豊穣の大地=大地母神という土地固有の伝承をけっこうガッツリと思いきり描写しているのが面白い。日本でいえば時代劇に日本昔話のファンタジー要素を取り入れたようなものである。山には神がいる、川は龍神、嵐は風神雷神というようなアニミズム。それを一神教がほとんどを占める地域に向けて作ってるのは、実に面白いと思う。もし宗教的な理由から人気があまり出なかったとしても、その土地の価値観でその土地を描いたことは、意義のあることだったと思う。
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