けんたろう

さらば、愛の言葉よのけんたろうのレビュー・感想・評価

さらば、愛の言葉よ(2014年製作の映画)
-
陰毛に言葉が絡まるおはなし。


人、犬、木、葉、電車、車、船、自転車、其れからスロウ・モウシヨンと繰り返しとモンテイジ。

告白しよう。始めは、訳の解らぬシインが乱雑に繋がつただけの、纏りなどいふ物が毫も無い、鑑賞者唖然必至の、詰まるところ巷のサメ映画と殆ど同じき様相を呈するZ級など楽々下回りさうな酷い映画だなと愚かにも断じ、「成るほど、遂にコンマビジヨンはゴダールさへも輸入するやうに成つたのか」と少しく勘違ひをしてしまつた。
然し、観てゆくうちに一つの疑念が頭を擡げ、然うして其れは大きな確信へと変はつた。詰まるところ此れは、紛れも無くたつた一つの物語りであり、其れも一言では決して片附けられぬ一つの物語りである。成るほど複雑怪奇であることに変はりは無い。然し思ふに、人間一人の頭の中に住まふものを純粋に描かんとすれば、屹度斯う成るには違ひないのだ。其れゆゑ、本作、極めて純粋なる作品だと云へよう。

自由に依る隔絶。セツクスと死。社会体制と個々人の慾望活動生活営為とが驚きの繋がりを見せる本作。うむ。雑然としてゐるやうで、矢張り全くしてゐない。

思へば彼の有名なフアン・ゴツホは、──私し自身、よく存じ上げないので余んまり大それたことは云へないが──己が目に映る世界を画布の上に表現せんとした。若しや、芸術家とは斯く在るものなのかも知れない。然らば、今作に於けるJL爺の即ち表現は、有無を云はさずして芸術なんではなからうか。むろん私しなどが云ふまでもないことには相違あるまいが。

とかく、此のたびの鑑賞は、私しに取りて非常に大きなものであつた。彼れの作品への認知が丸きり変はつたのだ。今まで観てきた作品も、此処らで観返してみる必要が有らう。

因みに、本作が何んな物語りであつたのかは、さつぱり判らない。誰れが誰れと何をして何う成つたのか。自慢ぢやないが、一つも判らない。何んなら主人公が誰れだつたのかさへも判らない。本当に何ん何んだ此れ。